『めっちゃかわいい猫映画』 と、その先にあるもの。
今年のアカデミー賞でロズを押さえて長編アニメーション賞を受賞。監督が独りで製作した前作の「Away」から、50名にスタッフを増員して作った本作。
洪水に呑まれ、人間は誰も登場しない世紀末的な世界で、一匹の猫が仲間たちと旅をするというシンプルなあらすじでしたが、単純に子どもが喜ぶ”猫かわいい映画” と見ることもできるし、深堀りした考察も可能な、ある意味大人向けの映画でもありました。
■ 素晴らしい映像と没入感
前作「Away」にも完成度の高い独特な世界観がありましたが、前作から5年を経て制作された本作は、格段に映像の完成度が上がっていたように思います。
引きの画中心でゲーム映像感が強かった前作から、本作は常に猫の目線の高さの映像で、猫目線から他の動物たちや世界を見上げる構図になっていて、主人公の猫に深く感情移入してしまいます。
ストーリー展開も早くてリズムもよく、自分が飼っている猫のように、感情移入した猫を見守る視点で、『やばいやばい、逃げて逃げて!』って感じで見ていたら、あっという間に終わってしまいました。
主人公の猫がとにかく可愛くて、一時期よく遊んでいた猫を思い出し、カバンに付けていたキーホルダーを壊されたり、猫のあくびはかわいいけどけっこう臭いんだよな、とか、いろんなことを思い出して、感情を揺さぶられた映画となりました。
後半は若干「崖の上のポニョ」っぽいな、とも感じましたが、前作のようなゲームっぽさは全く無く、軽い気持ちで見始めた映画でしたが、良い意味でサプライズ感があった、とても素晴らしい映画でした。
ちなみに、エンドロールのあとに重要な意味を持っていそうな映像が流れるので、お見逃し無く。
◇
個人的には”猫かわいい映画” で良いのでは、とも思いましたが、完成度の高い「野生の島のロズ」をおさえてアカデミー賞を受賞しているだけに、なんらか深いテーマが込められているのではないか、とも思います。
ということで、以下、妄想を含めた考察を書いてみたいと思います。
(以下は映画の内容に触れています)
以下に、3つの観点で考察を書いていきます。
1,2は、割と一般的な見方ではないかと思いますが、3はかなり妄想かも。。
■ 1.温暖化への警鐘
世界が水没し、限られた動物だけで世界を再構築するという、旧約聖書にあるノアの方舟ストーリーで、このままだと地球温暖化により世界は水没する、という警鐘。
また、狭い舟の中では、様々な国、様々な人種の人たちが助け合って生きていかないという、多様性の重要性を訴えるテーマ性がありそうです。
■ 2.成長ストーリー
序盤では、足元が水没していく中で仕方なく、こわごわ水に飛び込んでいた主人公(猫)でしたが、後半では自ら水に飛び込んで仲間たちの分も魚を取ってくる。水嫌いで有名な猫だけに、こんなシーンには、成長が感じられて感動しました。
また、前作でも、親や社会の漠然とした不安のメタファーとして黒い影の巨人が描かれ、そこから逃げ、戦い、成長する少年は監督自身ではないか、と言われていましたが、
本作では主人公(猫)は彫刻が飾られた家で飼われており、これは、画家の母と彫刻家の父を親に持つギンツ・ジルバロディス監督自身ともいえ、やはり本作も監督自身の成長を描いたものとも言えそうです。
ギンツ・ジルバロディス - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Gints_Zilbalodis
■ 3.大国の脅威に翻弄されるラトビアを描いている?
主人公の猫=監督の出身国、ラトビアと見ることもできそうです。
ロシアに国境を接したバルト三国の小国、ラトビア。
古くはスウェーデン、その後もロシア→ナチス・ドイツ→ソ連と、周辺国からの占領と独立を繰り返し、現在はEU、NATOに加盟しながらも、再び、ロシアの脅威にさらされています。
そんな、『ウクライナの次は自分たちかもしれない』という恐怖からは、
津波・洪水のような、抗えない強大な脅威(=ロシア)に翻弄されつつも、仲間たち(バルト三国、EU)と力を合わせて乗り切っていかなければならないという、ラトビア自身を描いているようにも思えます。
さらに言うと、劇中で猫を助けてくれる白い鳥はアメリカ。
強さと優しさを兼ね備えていながらも、常に偉そうでリーダーとして上に立とうとし、水上で孤立していた犬たちは助けようとしない。
そして、舟内の猫やカピバラたちの意見が『助けるべき』で一致した瞬間にやる気を失い、助けた犬たちが舟で悪さをすると『ほら見たことか』と猫を睨みつけ、その後興味を失ったかのようにさっさと居なくなってしまう。そんな姿は、イラクやアフガニスタンから撤退したアメリカのようでした。
一方で、巨大なクジラ(シーラカンスようでもありましたが)は、ウクライナでしょうか。
周辺国に比べるとクジラのように巨大なウクライナですが、終盤、陸上で苦しそうにあえぎ、猫たちはどうすることも出来ずに見守るしか無い巨大なクジラの姿は、今のウクライナに重なります。
(そういう意味では、ポストクレジットで大海を泳ぐクジラの姿には救いを感じました)
■ そもそも洪水(Flow)はなぜ起こり、なぜまた引いて行ったのか
これは完全に妄想ですが、巨大彗星の接近による重力異常みたいなものかな、と。
映画「インターステラー」ではブラックホールの力で大津波が発生していましたが、本作の鳥のシーンなどから想像すると、彗星の接近により海水が吸い上げられて津波や水没が起こり、最接近時には重力異常も起こって鳥もそこに吸い込まれた。
ただ、彗星が遠ざかるとまた、元の水位に戻る、みたいな。
こう考えると、彗星そのものも、避けがたい、強国による侵略のメタファーのようにも思えます。
・・・以上、勝手な妄想考察でした!