ぶみ

敵のぶみのレビュー・感想・評価

(2025年製作の映画)
4.0
私 そんな先生が みたかったんです

筒井康隆が上梓した同名小説を、吉田大八監督、脚本、長塚京三主演により映像化したドラマ。
一人慎ましい生活を毎日規則正しく送る主人公の日常が、あることをキッカケに変化していく様を描く。
原作は未読。
主人公となる元大学教授の渡辺儀助を長塚、亡くなった妻の信子を黒沢あすか、かつての教え子である鷹司靖子を瀧内公美、バーで出会った大学生の菅井歩美を河合優実が演じているほか、松尾諭、松尾貴史、中島歩、カトウシンスケ等が登場。
物語は、77歳になる儀助の一人で暮らす日常が淡々と、そしてモノクロで描かれるため、台詞が少なく非常に静かな印象でスタート、時折教え子である靖子が尋ねてきたり、馴染みのバーに行き、大学生の歩美と知り合ったりと、変化はあるものの、基本はその暮らしぶりを見せられることに。
ただ、途中「敵がやって来る」旨のメールが届いたあたりから、家の庭に人影が見えたり、謎の検査を受けたり、ハッと目が覚めたりと不穏な出来事が徐々に巻き起こることとなり、そのタッチは一気にミステリアスになっていくことに。
何より、高齢男性の上っ面だけをなぞったような丁寧な暮らしを描くだけではなく、通常では描写されないような部分もキチンと表現されており、それを惜しげもなく体現した長塚の演技はダンディかつ人間味溢れるもの。
それに加え、いまや引っ張りダコの河合や、もはや台詞すらなかったような中島が、チョイ役とは言え、抜群の存在感を発揮していたのは流石の一言。
冒頭表示される配給であるハピネットのロゴがモノクロだったことから、新鮮かつ不穏感満点なスタートを切ったうえに、後半の展開は、夢か現か幻かを地で行くようなものとなり、スパッと終わるラストにより果たして敵が何だったのかという余韻が堪らないものとなっているとともに、Windows機ではなく、iMacを愛用する儀助が実際にパリ大学に留学していた長塚のハマり役であり、同じく自宅ではMacBookを使っている私としては、少し嬉しくなった良作。

鳥と言うより、裏窓だね。
ぶみ

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