半兵衛

俺は田舎のプレスリーの半兵衛のレビュー・感想・評価

俺は田舎のプレスリー(1978年製作の映画)
4.0
田舎町で暮らす人たちの喜劇という体裁をとっているが、実際は変わりゆく時代の流れを諦念と僅かな希望により静かに受け入れていく人たちを美しく描いたドラマ。舞台となる町や主人公一家に小さなさざ波を起こすカルーセル麻紀も能天気なキャラクターながら、ラストの台詞で彼女も性転換という特殊な事情を受け入れられない閉鎖的な日本の社会を諦めて受け止めていたことがわかり見送った先生同様やるせなくなる。

期待していた長男が女になり絶望する父・ハナ肇と弟・勝野洋にその後更に落胆させる出来事が起こるが、それを優しく受け止めて生きようとする彼らの姿は諦めを覚えて生きていく我々の姿とダブってホロリとくる。それをくどくどと描かず、さらりと描写しているのが心に響く。

舞台となる五所川原を美しく撮った映像の数々も印象的で、微かな風に吹かれて苗が揺れる田んぼをロングで撮影したシーンなんてまるで台湾ニューウェイブ作品のようでうっとりとした。思えば夏が舞台というのもそれらしい。

色々な名脇役たちが多数登場してスクリーンを賑わせているのも見所で、あき竹城と野村昭子の夢の共演やら飄々とした隠居老人のアラカンやら最後に美味しいところをもっていく吉田日出子の活躍が映画ファンを大いに楽しませる。あと吉幾三の達者な演技もさすがコントもこなすだけのことはあると感心した。

でも当時の邦画界ではジェンダーの問題に悩み転換した本編のカルーセル同様、本質を受け入れられず単なる喜劇として忘却の彼方に流れていったというのも侘しいな。

ちなみにカルーセル麻紀の津軽弁が地元の人間かと思うくらいリアルでびっくりするが、五所川原の人か吉幾三に指導でもしてもらったのだろうか。
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