こういう作品を見ると、山田洋次監督に心理ホラー映画やサスペンスを撮らせなかったのは松竹のみならず日本映画界にとっても大きな損失だったのではと感じてしまう。兄の無実を巡るドラマが、いつしか彼の弁護を断った弁護士への逆恨みとなり彼に報復することが亡くなった兄の恨みを晴らす行為だという理不尽な妄執となっていく狂気のドラマが冷たい肌触りの映像とともにもたらされ、あまりな結末といい人間の心の闇を突きつけられて唖然とする。でもこういうのをやれたのは橋本忍という妄執を描いたらこの人の右に出るものはいないという作家と倍賞千恵子というその役になりきれる狂気を持つ女優がいたから出来たのであり、心理ホラーに理解のある作家がいない当時の松竹ではそういうジャンルに手を出すのは難しく会社の方針通り喜劇へ行くしかなかったのだろうな。
こんな作品でも三崎千恵子のキャラクターが親しみやすいおばさんキャラなのが松竹らしい。