20年以上もカメラを回し続けたのだから力作であることは間違いなく面白いドキュメンタリーなのだが、統合失調症患者を異物であり悲惨なものであり恐ろしいものであるとする視点は全編に渡って見られ、現にここの感想を見ても「壮絶」とか「地獄」などの文言が並ぶ。
統合失調症が「心のがん」とでも言うべき重い病気であることは間違いなく、早期の薬物投与による寛解率が高く完治の例も見られる点、罹患者の自殺率が有意に高い点から見て、それらしき徴候が現れたらとにかく一刻も早く病院に連れてって薬物療法を開始する必要があることは常識になればいい。
ただそれとは別に、人間というのは人生の中でいろいろと形を変えるものだし、統合失調症も結局はそうした「普通の」変容の一形態でしかないという視点も、やはり必要ではないかと思う。病気でなくても病気のような妄想や偏見を強固に持ち続けている人は世の中に大勢いるわけだし、そして世の中はそれでも別に問題なく回っていて、健康な人たちもその人たちと一緒になんだかんだまぁまぁ楽しく暮らしているのが世の中というもの。
監督の姉が作ったオブジェに対して「それを見て僕は衝撃を受けた」という字幕が出るシーンがあるが、統合失調症の人が何かオブジェを作り始めたら、それはポジティブな行為なのだし、忌避するのではなく、自分も横で楽しみながら一緒にオブジェを作り始めるようでありたいと俺は思う。
↓は統合失調症の症状から治療法、予後までまとめた概説ページですので、映画を見た人は一読してみることをお勧めします。
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%96%A2%E9%80%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E7%BE%A4/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87#%E7%97%87%E7%8A%B6_v28484916_ja