TIFF。
西欧オランダに移住した、ルーマニア人夫婦の移民残酷物語。
メキシコで娘を誘拐された母親の“復讐”を描いた、「市民」のテオドラ・アナ・ミハイ、今回も実話にインスパイアされた作品。
同じEU圏内でも、西欧と東欧はまるで世界が違う。
希望を求めて出稼ぎに来たものの、斡旋業者に給料中抜きされてタコ部屋に詰め込まれ、いくら働いても借金を返せない。
夫婦の夫は、徐々に羽振りの良い同郷の悪い友人たちと、ヤバイ仕事に手を染めてゆく。
そして彼らが狙うのが、ブルジョワの集まる美術展。
しかし悲しいかな、彼らは基本情弱ゆえに高額過ぎる美術品は、裏社会でも売れないという事実すら知らないのだ。
金にならないのにリスクだけ犯し、どんどんドツボにハマってゆく。
彼らが絵を盗んだ美術展が、西欧のトラウマである「植民地主義」をテーマとしているのが凄くシニカル。
直接統治する形ではなくなったが、弱い立場の者に対する搾取の構図は、いまも変わらないと言う訳。
脚本がクリスティアン・ムンジウだからか、ルーマニアの田舎暮らしが生活臭が感じ取れるくらいリアル。
悲喜劇的な物語の幕引きは夫婦の妻によって成されるが、はたして彼女がばあちゃんに渡したのはどっちの袋?
観客の社会的立場やメンタルの状態によって、物語の解釈はだいぶ変わってきそうだ。
Q&Aで監督が観客に、ラストに希望を感じる?感じない?と質問をし、答えがほぼ半々だったのが興味深い。
私は感じない派。
だってろくな未来が想像出来ないもんなあ。