TIFF。
イランの地方都市。
夫が自殺したことを知った妻のサマンは、目の前の事態を受け入れることが出来ず、まるで夫が生きているかのように装いながら、いろいろな人を訪ね歩く。
旧友、姉、夫の同僚、夫の上司、そして実家。
旧友は夫と別居し、皮肉なことに結婚式専門のカメラマンをしている。
姉の家は4年前に夫が自殺を仄めかして失踪し、遺体は見つからず。
今もどこかで生きているのでは?と吹っ切れていない。
ここまでは、問題を抱えた女性たちの話。
夫と共にストライキを先導し、逮捕された同僚は裁判を控えメンタルが壊れかかっている。
しかし夫を死に追いやった会社の上司は、不誠実な対応に終始する。
ここまでが、サマンが夫の死の理由を知る話。
そして最後に訪れる実家でも、家族は色々な問題を抱えているのだが、父の言葉が彼女の心を少しだけ軽くする。
カメラは終始主人公のサマンに張り付き、ほぼ出ずっぱり。
制作には3年が費やされていて、脚本は最初と最後だけが決まっていて、その間にどんな物語が入るのか、何が起こるのかは撮りながら組み立てていったという実験的な体制。
アシュカン・アシュカニ監督は、TIFFでも上映された「悪は存在せず」などの撮影監督。
これが長編監督デビュー作だそうだが、端正かつ未見性のある作品をものにした。
世の中は問題だらけで、誰も解決策を知らない。
でも、いくら考えても、目の前の現実は変わらない。
これは今、吹雪の中にいるサマンが、「春が来るまで待とう」と決めるまでの、24時間の物語。
主演のサハル・ソテュデーは、本作の脚本にも関わり、短編映画の監督もこなす才女。
イランの女優さんは本当に美しい人が多い。