同工異曲というのは、否定的な意味合いでは、一見違うが中身は似たり寄ったりの事柄を表す。他方で、肯定的な文脈では、一見似ているが異なる味わいがあることを表す。
四谷怪談というのは、お岩という貞淑な妻が子供を産むと、亭主の貧乏であるが悪徳の伊右衛門が不貞と不義理を尽くして、妻と子を死に至らしめる。その妻が恨めしや〜と化けて出て、伊右衛門を苦しめるというのが大まかな話で、たぶん多くの日本人はそのプロットを知っているのだろう。
加藤泰『怪談 お岩の亡霊』(1961)と、三池崇史『喰女』(2014)に続いて、本作を観て四谷怪談の多様性に驚く。まったく違った味わいを得るのである。お岩がゴースト化するので、基本的にホラーであり、脚色はそれぞれなされるにせよ物語の構造はばれているのである。
本作は加藤泰のものと比較して、省略はしない。逆に十分に説明して、行間を埋め合わせ、ストーリーを煮詰めた上で、ゴーストを畳み掛ける重厚なスタイルである。カラーのゴーストはかなりしつこく映し出され、細部もはっきりしている。人体を刀で斬る場面も多数描かれる。しかし血糊はかなり控えめである。合成したのであろう、黄緑の人魂を踊らせ、お岩の顔面のグロも繰り返し映し出しながら、刀による切断は血糊が意外なほどに少なく、噴き出すことはないし、どくどく流れてもいない。血糊や流血というのはそんなに簡単ではない。
70年代に至ってもダリオ・アルジェントやアレハンドロ・ホドロフスキーらの血は不十分である。スタンリー・キューブリックの『シャイニング』は1980年の作品で、ホテルの廊下に溢れる血の洪水ショットが有名である。UHDとBlu-rayで注意深く見比べたのだが、どちらもグレープジュース、よく言っても、ボジョレーヌーボである。意外に血は難しい、しかしまた、極めて重要なモチーフである。三池崇史の『喰女』の寝室の床はべちゃべちゃの血の池で、ベッドは問題ないと見せておいて、めくると白いシーツが血で濡れそぼっているシーンがある。闇に白く浮かぶシーツという媒体を使った技巧的な血の表現となっていた。
本作は正統派のスタイルで、執拗に出現するお岩のゴーストを堪能できる。血の描写がいまいちかもしれないが、とにかく分かりやすい。四谷怪談シリーズをどこから観たらよいか迷う人にもお勧めであろう。按摩の宅悦の愛嬌も良い。
レンタルDVD。55円宅配GEO、18分の16。