リラリオ

蝶の渡りのリラリオのレビュー・感想・評価

蝶の渡り(2023年製作の映画)
4.0
かつて輝いた若者たち…27年後、古びた家の半地下に集まるのは?
人生はうまくいかないことばかり。それでも笑って生き抜いていく…
戦争の痛み、ディアスポラの悲しみ、笑いあふれるドタバタ的展開をくわえながらも、未来に行き詰まり、生き抜くために“渡り”をするジョージア人の姿を蝶に託した悲喜劇。

1991年、ソ連からの独立が近づき、希望に満ちたどんちゃん騒ぎで新年を迎える若者たち。
しかし、その喜びは、すぐに消えてしまう…
ジョージアからの分離独立をめぐりアブハジア紛争が勃発、多くの命が奪われ、彼らも仲間の画家・ズラを失ってしまう…

それから27年後、彼らの姿は…
売れない画家コスタが暮らす古びた家の半地下には、相変わらずの仲間たちが集まり、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ…
ミュージシャンのミシャとムラ、ファッションデザイナーのロラ、通訳のタソ、アブハジア紛争で夫ズラを亡くし、修道女になった元フォトグラファーのナタ。
「放蕩娘のご帰還だ!」
そこへ、コスタとくっついたり離れたりを長年繰り返す元バレリーナのニナが恋人と別れ、またコスタの元へ帰ってくる…
才能はあるが、世間に認められず、日に日にアートに関心を持つ人は減るばかり…仕事もない、金もない…「電気代、誰が払う? 今日払わなきゃ止められっぞ…」

新年を迎えようとしているある日、いつものように集まる仲間たち→そこへタソが絵を買いたいというアメリカの著名な美術コレクター・スティーヴを連れてくる→絵を高く売りつけようと張り切る仲間たち→絵の説明をするコスタ→スティーヴは「蝶の渡り」の絵を気に入り、買い取りたいと申し出る→しかしコスタは…「これは売り物じゃない」→ 「蝶の渡り」だけは、いくら金を積まれても手放さないと申し出を断る→そこへニナが現れる→「♡♡♡」→スティーヴはニナの美しさに一目惚れしてしまう…

「あなたは唯一無二の奇跡だ!」→目的の絵はそっちのけ、すっかりニナに夢中のスティーヴ→「私は恋に落ちた。あなたのご主人に決闘を申し込みたい」→ニナは答える→「私に夫はいない」→するとスティーヴは…「私の妻になってください!」→突然ニナに結婚を申し込む…
これまで何度も復縁を繰り返してきたコスタとニナ。アメリカへ渡れば、今より豊かな生活が手に入ると考えたコスタはニナを手放す決心をする。
「彼と結婚しろ」
ニナをアメリカに送り出すコスタ。
ニナはコスタとの別れを惜しみ、アメリカへと飛び立っていく…

ニナの新しい人生を祝う仲間たち→「私も結婚したい!」→ニナの“渡り”をきっかけに、自分も国外に移住し豊かな生活を送りたいと思い始めるロラ→タソはロラのために著名な外国人がジョージアに来ていないか調べる→イタリア人の昆虫学者(蝶のコレクター?)にロックオン→仲間たちと作戦を練り、決行する(相手が興味を示す貴重な蝶の標本を持ち、出会い頭に素っ転ぶという非常にベタな作戦)→作戦は見事成功するも、ジョージアの珍しい蝶に魅せられた昆虫学者は、「蝶は生まれた環境でしか生きられない」と自分がジョージアに移住すると言い出す。焦ったロラは…

ムラとミシャにも、外国での音楽の仕事が舞い込む→謎のアメリカ人女性から高額なギャラを提示され、ノリノリのムラ→しかし、車椅子生活を送る年老いた母親を残して行けないとアメリカ行きを渋るミシャ→「なんとかなるさ!」→ムラはミシャの事情などお構い無しにアメリカ行きを決めてしまう→「ここで面倒見るから」→コスタがミシャの母親の面倒を見ることになる→こうしてムラとミシャはアメリカへと旅立つ→2人が引き受けた仕事とは…砂漠で焚き火を囲み、ネイティブアメリカンとセッションする、謎の内容だった…

なかなかアメリカから戻らない恋人のミシャを追いかけ、タソもアメリカへ渡る。そして、芸術家たちの溜まり場だった半地下は、再開発で取り壊しが決まり、コスタは絵をすべて処分し、部屋の中の家具や本も処分、ミシャの母親をナタがいる修道院へ預ける。
騒がしかった半地下は、静かな年末を迎える。
そこへ…

11作目のジョージア(旧グルジア)映画
原題は「蝶の強制移住」
大好きな映画「シビラの悪戯」から23年ぶり??(20年ぶりの日本公開)となるナナ・ジョルジャゼの待望の新作、期待大で鑑賞。
初手から登場人物が一気に出てきて、誰が誰なのか、仲間内での関係性もよくわからず、??だらけの序盤。話が進むにつれ「なるほど…」となってきたところで、いきなりアメリカに渡ったニナから日本文化を学ぶ様子が映された謎の動画が届き(中国と日本をMIXさせたエセ日本文化)、そして芸術家たちが集う半地下が突如結婚相談所化してまうという珍展開にww
ドタバタ展開というよりハチャメチャ展開でした。
しかしラストはしんみりと…

複雑な歴史を持つジョージア。
旧ソ連時代の政治的抑圧、独立後も内戦や戦争で混迷を極め、戦禍を逃れるために母国を離れた多くのジョージア人。
BALENCIAGAのアーティスティックディレクターデムナ・ヴァザリアとVetementsのクリエイティブディレクターグラム・ヴァザリアもアブハジア北西部に生まれ、アブハジア紛争で家をなくし故郷を追われた経験を持つジョージア出身のデザイナー。
ファッション界に革命をもたらしたデムナが生み出すクリエーションには、自由や情報が制限された環境で育った幼少期や壮絶な避難生活の経験、ジョージアへの思いが色濃く反映されている。
そして、人口約370万人の小国ながらも映画の王国と言われるジョージア。
厳しい政治的抑圧下にありながら、自由を求め、独⾃の⽂化を作り上げたジョージアの映画には、ユーモアや皮肉を交え、社会の不条理や人間の本質を描いた繊細で独創的な作品が多い。
政治的制圧、戦争、民族離散…数々の苦難を経験しながらも、独自の表現を追求し、存在感を世界に示すジョージア人のエネルギー…マジ凄です!!

そのジョージアを代表する女性監督ナナ・ジョルジャゼの「蝶の渡り」は、新作にして集大成的な作品とのこと…
少々、ネタバレになってしまうが…
物語の見届け人的な存在でナナ・ジョルジャゼの分身にあたるフォトグラファー・ナタが、ニナから貰ったばかりの高級カメラ(たしかキャノンの一眼レフ)を「もう撮りたいものはすべて撮った、次はあなたの番よ!」と通りがかりのチビッ子にあげてしまったが、あれは自分は撮りたいもの撮ったから、後はよろしく!ちゅうナナ・ジョルジャゼから若い芸術家たちへ向けたメッセージかな~と…もう映画撮りそうにないなと感じました。
久しぶり過ぎる新作内で引退宣言??とは…やはり独創的だなw
残念だけど、もう76歳だしな…

「まだ風は吹いている!」
住む場所を移されると生きていけない蝶。生活の糧を失った芸術家たちはいかに戦後を生きたのか?
わかりづらいところも多少あったが、観終わってからジワジワくる良き作品でした。
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