ヨダセアSeaYoda

夢見る人のヨダセアSeaYodaのレビュー・感想・評価

夢見る人(2023年製作の映画)
4.1
絵画的な構図と繊細な色彩で紡がれる本作は、まるで美しい童話のような視覚表現に満ちている。絵本から抜け出してきたかのような色鮮やかな衣装とセット、そして主人公の特徴的な佇まいが、独特の詩的空間を創り出す。だが、この美しい映像美の奥に潜むのは、芸術と愛の残酷な関係性を描いた痛切な物語だ。

純粋な愛と純粋な芸術―この二つは時として相容れない。素朴で飾り気のない容姿の男が抱く純粋な愛情は、芸術という名のもとに冷徹に搾取されていく。その過程は見るものの心を締め付ける。他者の苦悩を芸術へと昇華させること。そこには作り手の避けがたいエゴイズムが存在し、表現の対象となった者に救いはもたらされない。むしろ、その魂は永遠に作品の中に閉じ込められてしまうのかもしれない。

作中で示唆的に描かれる「自分の裸体を展示する主張的アート」は、見られることと見せることの本質的な違いを問いかける。アーティストの意思で「見せる」という能動的な行為は、単に「見られる」という受動的な状態とは明確に異なるのだ。しかし本作は、その境界線の危うさを鋭く突く。主人公が愛する人にだけ見せた私的な姿が、芸術という名の下で大衆の視線に晒される瞬間、その行為は本来の意味を喪失し、ただ「見られるもの」へと変質してしまう。この変容には、現代アートが内包する倫理的なジレンマが如実に表れている。

もう何度か観たいほど、心に深く刻まれる作品だった。myfffでの限定配信という特性上、すぐに視聴できなくなってしまうのが惜しい。
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