安堵霊タラコフスキー

若き日のリンカンの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

若き日のリンカン(1939年製作の映画)
4.9
ホン・サンスの選んだオールタイムベストの映画で唯一見逃していた作品をようやく見たが、やはりこの作品も他の選出作品同様に素晴らしいものだった。

弁護士時代のリンカーンを描いたこの作品、黒澤明が手本にしたであろう適切かつ情緒的なカット割と後のエリック・ロメールが如き簡素かつ洗練された演出と描写の数々は実に心地の良いもので、リュミエールらが撮ったような原初的映画の究極形の一つを拝んでいるようだった。

リンカーンにしか見えないヘンリー・フォンダも相変わらず良い仕事をしており、容姿や演技力のおかげで本物のリンカーンの活躍を見ているかのように錯覚する場面も多々あり、それに加えて劇中での行動も勇敢かつ理知的なものが多かったものだから非常に格好良かった。

一番好きな箇所は冒頭の法律を読む場面から墓前での語りかけまでの一連(シーン自体の長閑さも良いが一気に時間の飛ぶ無常観が特に良い)なんだけれど、その後も祭りのシーンとか社交界のシーンとか終始良い場面が続くから食後だというのに全く飽きずに拝むことができた。

それにしても前からそうなんじゃないかとは思っていたけど、ホン・サンス選出のオールタイムベスト映画は全て自分の琴線に触れるものばかりで、ここまで嗜好の似た人物が監督にいるっていうのは中々珍しいと我ながら思うし、そんな貴重な監督をファンとして今後も応援していきたい。