ベルリン映画祭パースペクティブス部門選出作品。ウルシュカ・ジュキッチ(Urška Djukić)長編一作目。Émilie Pigeardと共に撮った短編『Granny's Sexual Life』がアヌシー映画祭やセザール賞などの短編アニメ賞を総なめしており、非常に期待される監督の初長編だったようだ。本作品の主人公は内気な女子高生ルチア。映画は彼女がカトリック系の女子校で合唱団に入団する場面から始まる。上目遣いでオドオドしながら、それでも興味津々に世界を観察する彼女の目線を体感するように、映画はほとんどの場面でクローズアップを使用している。合唱団で、彼女は人気者の先輩アンナマリアとその友人たちと親しくなる。彼女たちは早熟でセックスの歓びを語り、未だに初潮すら迎えていないルチアはその言葉の意味を捉えかねているが、その言葉に導かれるように性的発見/探求を開始する。生徒たちは隣国イタリアの修道院へ合宿に行くことになり、そこは改修工事のためのイタリア人労働者が中庭で筋肉に汗を垂らして働いているという刺激強めな環境で、ルチアの探求は加速していく云々。全編通して軽めなタッチで進んでいくのは、最終的なゴールの"流動性"を担保するためだろう。この手の作品は選んだ場所に固執しがちなイメージもあるが、本作品にはそういった不健康さは一切ない。その一例として、母親との関係性の描き方の上手さがある。叔母にもらったという口紅を"まだ早い"という理由で取り上げられた次のシーンで、ソファで寝る父親の鼾で夜中に起きた二人が流れっぱなしのTVの前で映画を見てアイスを食べる様が描かれる。この"理解はしてるけど納得はしてない"くらいの距離感を保てるルチアだからこそ、その後の探求に風通しの良さというか健康的な印象すら感じさせるのだろう。映画で描かれるのは短い時間における意識の小さな変化だが、時間が経つほどに大きな変化になっていくだろうことが分かるラストも健康的で良い。