拘泥

お引越しの拘泥のレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
5.0
はいバケモン。相米をここから入らないでおいて良かった。いやまあ『光る女』から入っちゃったのは良くなかったけど。
森崎東の『ロケーション』を観た時に感じたかったのに感じられなかった物が弾け飛んだ。何だこれ、夏の旅立ちが即ちHorror…を大人…に代えた『地獄の黙示録』じゃんって何。じゃんって言うのやめろ!
俳優陣の醸し出す彷徨う愛、その笑顔や唐突のムーンウォークや血の繋がり(子は紙をずらす程度で、大人はガラスごと貫き、また傷つく)としての血塗れの腕、その地。美しき澱みとしての雨にシャワーと鮮やかな空と濃緑がそれらを囲む。何か1時間程度で充分に泣けてきてしまった。
記述の話である。記述の話であった。契約、記述され、誓われた筈なのに望む通り果たされないそれ。婚姻、2のための契約、また策謀を記した籠城さえも。守られない紙なんて殴れ。全く大人は勝手だ。
そして始まる驚異の旅。「琵琶湖へ行く」と決めた、決めた通りに行く子だった。行くことができたのは子供で大人で、大人がいた故。履行を遡行する父の表裏に重なる。彼女は母のため、父のため、己のために「早く大人になる」と言ってしまった。残酷な答え、そのための急遽の通過儀礼。写真も家屋も思い出も魂も燃え尽き、鎮魂と祝祭に塹壕を通る。狼男は生まれ直す遠吠えに泣く。「おめでとうございます(幻は死に、女性は『めでたさ』を背負わされる。)」と己で言って訣別した。「来年も来る」と言ったそれはもう、大人の契約となった。彼女はきっと親を少し理解して、契約と作文を記述することができた。それは悲しいばかりのことではない拍手と笑顔に溢れる事だが、やっぱりその寂しさと辛さを否めない。彼女はもう二度と「何で産んだん?」なんて問いかける事はしないだろう。子達から傍へ抜け、戯れ(しかし声をかけてゆく)を終えて、制服に身を包む強い眼差し。涙が止まらない。大人は勝手だ。こんな上で生きる事を学んだ。
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