拘泥

ドラえもん のび太と雲の王国の拘泥のレビュー・感想・評価

4.3
めっっちゃくちゃ藤子F不二雄で最高。鉄人兵団に並ぶぐらい好き。完成度だけ見れば大長編ドラえもんの最高傑作だろう。
序盤の空間の大きさを示した緻密なカメラワークによるとんでもねえワクワク感。中盤からはそれが廃されて、天上は天下と軌を一にし、王国で溶かした雲のウォーターフォールは、ノアの洪水として究極の脅威へとなる脚本。
そう、脚本が圧倒的。なんっっっっって完璧な脚本なんだ。食堂とかいう腐れおもしろ道具がドラえもんの頭を悩ませる煙としての機能だけを果たしておもろ過ぎてからの当然の鳥とか、細かいところでも本当に無駄がなく、そして面白い。ドンジャラ村の歓待を能天気に受け入れるのび太の懐の広さには笑いながら涙が出そうになる。H〜もバカ過ぎるが至極妥当で最高。
そういった小さな駆動力の冴え渡りはもちろんだが、暴力装置の巧みな配置による大きな語りは冴え渡り過ぎている。徹底的に暴力装置の話である。
まず大長編ドラえもんのトラディショナルな仲間たちの参入としての、荒唐無稽な株式王国の面白過ぎる始まり。3万円で解決するってどんだけ金ないんだ。からのスネ夫が大株主過ぎて大丈夫か?の疑問に、スネ夫は当然に権力を行使しようとするが法と暴力装置がないために大株主であるにも関わらず狩られる姿によって、ホッブズが立ち現れる。その時のスネ夫とジャイアンの追いかけっこの速度の面白さたるや。そこから天上人の警察という暴力装置とその抑圧、からの環境問題を交えた核兵器の提示。核と環境問題の容赦のなさが「親世代」の全てを流し去るものとしてのび太に立ち現れる点(受け継がれてしまった過去を清算せねばならないのはあなたであるという残酷な現実)。ドラえもんの目覚めというまた大長編のトラディショナルな希望とそのバカさ加減。道具のないドラえもんがシェルとして射出される絵面の圧倒的面白さ。見るも明らかなドクター・ストレンジラブのオマージュを通過しつつ、抱腹させるまでに身を粉にするという事が、前述ののび太の懐の広さが、人心を惹きつけるという事。なんつー無駄のない作劇。マジで素晴らしい。
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