けーはち

ミスター・ノーボディのけーはちのレビュー・感想・評価

ミスター・ノーボディ(1974年製作の映画)
4.0
初老の早撃ちガンマン、ジャック・ボーレガード(ヘンリー・フォンダ)は引退を決めているが未だに巷では「彼より速い男はいない」(Faster than him… Nobody)と言われている。そんな彼に付き纏う若者(テレンス・ヒル)は自ら「Nobody」と名乗るのだった。

年齢差バディなら普通は師弟関係っぽいものを想像するがそうじゃない。Nobodyの目的は総勢150人の悪党集団「ワイルド・バンチ」と歴史に残る大決闘をさせ、敬愛するジャックに引退前の花道を作ること。Nobodyは凄腕ガンマンだが、我欲や闘争心は持たず人懐っこい、それでいて恐怖心を微塵も感じず大胆に振る舞う風来坊。劇中で人を殺さず飄々とアホっぽくコミカルかつ破天荒な方法で解決するタイトルロールにして道化、狂言回し、トリックスター。かくして彼の目論見は達され、そして、ジャックは別れの手紙で西部の変質を語る。それはまるで終わり行くジャンルそのもののをメタに語るような造りである。

マカロニらしいシリアスな怨讐・血生臭さとは無縁なコミカルさに溢れ、Nobodyの呑気なテーマ曲や「ワイルド・バンチ」の登場シーンで流れるカッコいいのに「ワルキューレの騎行」を引用した部分が調子外れな音楽も面白おかしい(「ワルキューレの騎行」と言うと『地獄の黙示録』だが、それより五年前である)。珍妙ながらジャンルへの敬愛に溢れ、“最後のマカロニ・ウェスタン”と呼ばれるにふさわしい楽しい快作。