川田章吾

独裁者の川田章吾のレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
4.0
久しぶりにチャプリンの『独裁者』を観た。個人的には『モダン・タイムズ』の方が好きだけど、チャプリンの熱量がビシビシと伝わってくる作品。

例えば、冒頭のヒトラーをオマージュしたヒンケルの演説。
終始何を言っているのか分からないよう、わざとドイツ風なめちゃくちゃな言葉を使っている。
これは、ラストシーンの床屋の店主の演説と比較していて、床屋の店主の言葉は明快で分かりやすい。

こうした倒錯した世界がヒトラーの支配する世界であり、それは、

What time is it?

というフレーズで何度か表現されている。
倒錯した権力の側は、突撃隊の野蛮性、時間の効率化、論理的矛盾として幾度となく描かれていて、市井の人々の牧歌的な生活とは対照的だ。
『モダン・タイムズ』でも指摘されていた、現代の人間性の喪失がまさにこの映画のテーマなのだろう。

一方で、これは映画の中だけのことではない。映画では禁じ手の画面正面に対峙するシーンをラストに描くことで、これは私たち自身の問題なのだということを切実に訴えている。
映画よりも演劇的な手法だが、時代性を考えると物語性を壊してでも、このメッセージを伝えたかったのではないか。

見れば見るほど発見の多い作品なので、また時間をおいて見てみようと思った。
川田章吾

川田章吾