血で血を洗う戦国の世を生き抜いた齢70の老将で、巻狩で見た悪夢を機に三人の息子に家督を譲って隠居することを決意した一文字秀虎。ところが三本の矢を用いた講説を先行きを不安視する三男に論破されて、彼を追放した後は長男と次男に蔑ろにされ挙句に骨肉の争いが勃発。全てを失って何者でもなくなる彼の悲劇を描く時代劇映画です。
戦後の日本映画を支えた巨匠でプロダクション設立後にかさむ製作費の解決を海外に求めた黒澤明が、日本映画初の20世紀FOX配給作『影武者』でのパルムドール獲得を受けて制作した1985年公開の作品で、シェイクスピアの『リア王』をベースに毛利の『三子教訓状』を交えた物語が絶賛されてアカデミー賞で四部門にノミネートされました。
晩年を迎えた達士の物語とあって監督自身の投影を感じさせますが、主題を語る道化の存在も含めて人物や展開といった構成全般は『リア王』そのままで結論ありきの物語に些か実在感のなさと説教臭さを思うところはあります。それでも流石の演出が生み出す重厚感が物語の悲劇性を高めて鬼気迫るキャストの演技を盛り立てている一作です。