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グエムル -漢江の怪物-のtakのレビュー・感想・評価

グエムル -漢江の怪物-(2006年製作の映画)
3.9
 えーっ!この映画が日本ではコケたの?。こんなに面白いのに!。”韓国の怪獣映画”という紹介の仕方がいかんよな(と言っても他にどう説明するのだろう?)。日本の映画ファンは韓国映画に”古きよき日本的風景”だけを求めている。おまけに怪獣映画製作国の代表格であるだけに、日本の映画ファンは他国の怪獣映画を見下しすぎる。「韓国の怪獣映画だって?ゴジラには及ばない」だの「どうせCGだってたいしたことないって。」そんな世間の言われなき先入観が客足を遠ざけているとも思うのだ。確かに「グエムル」の怪物の造形はややショボい。B級映画的要素がぬぐえないのはそのせいかもしれないし、「パトレイバー」劇場版3作目に登場するクリーチャーに似ているとの噂がさらにB級感を加速させたのだ。

 正直言う。僕は近頃観たどの映画よりもスクリーンにクギづけになった。それは人間がきちんと描かれているからなのだ。この映画の主役は怪物じゃない。娘を怪物にさらわれたダメ親父とそのダメ兄弟が孤軍奮闘頑張る姿こそが映画の中心なのだ。僕はこの映画のクライマックス、ダメ3兄弟が怪物にそれぞれの方法で立ち向かう姿に感動した。自分にできる”これだけ”を懸命にやっている小市民。大学は出たけれど飲んだくれている弟は、大学時代のデモで学んだのであろう火炎ビンを、アーチェリー銅メダリストの妹は得意の弓矢で、そしてソン・ガンホ扮するダメ親父は鉄パイプを手に戦う。誰にも主張を認められず、誰にも頼れない。家族だけで立ち向かい、成功する。矢を放った後、燃え上がる怪物を背にするペ・ドゥナを異常なほどかっこいいと思った。そんな世間の底辺で健気に生きている者たちへの愛がこの映画にはあるからだ。単なる怪物が出る映画じゃない。そりゃ細かいことは言いだしたらきりがないけど。

 大国のエゴや嘘を正当化する政府に対する批判もストレートに盛り込まれ、物語に厚みをもたらしている。最初に怪物が登場したときに橋の下にぶら下がっていた姿。ウィルス退治の薬品が詰められた黄色い容器がぶら下がる様子が似ているのも対比を感じさせる。大国のエゴで生まれた「怪物」が大事な家族をさらっていく。それはもしかして”北の国”をイメージしている?。深読みだろうか。ときどき盛り込まれるユーモアあふれる描写もいい感じ。
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