松原慶太

ロング・グッドバイの松原慶太のレビュー・感想・評価

ロング・グッドバイ(1973年製作の映画)
3.7
だいぶ前に見たときはピンと来なかったんですが、チャンドラーの原作を読み、NHKのドラマ版(わりと原作に忠実な映像化)を見たあとで、あらためて見直してみると、また感想がちがってきますね。これ原作を知っていること前提で、変化球を楽しむ映画ですね(逆にいうと、元のストーリーを知らないと、なんだか掴みどころのない話に思えるかもしれません)。

まず、フィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)が、ぼさぼさのアフロヘア、よれよれのスーツに曲がったネクタイという風体なんですね。多くの原作ファンにとってマーロウは、「三つ数えろ」のハンフリー・ボガートみたいな、ストイックで寡黙な大人の男というイメージです。ところがこの映画のマーロウは、夜中にお腹の空いた猫に起こされて、キャットフードを買い出しにいくような男です。事務所のとなりには、トップレスの女性たちが住んでいて、いつも半裸でヨガをやっていたりします。70年代西海岸カルチャー全開のフリーダムな感じです。

ストーリーもかなり違っています。原作の主題である、テリー・レノックスとマーロウの友情はほとんど端折られています。いつもぐでんぐでんに酔っぱらっているけれど、みょうに礼儀正しいところのあるレノックスとの出会いとか、ふたりが夕方早い時間からバーに行き、きざな会話を交わしながらギムレットを飲むシーンとか、ことごとく端折られています。レノックスの登場シーンより、キャットフードをスーパーで買うシーンのほうが長いんじゃないでしょうか。アルトマンはハードボイルドの定石みたいなものを意図的に外したんでしょうね。

ここらへんをおもしろいと思えるかどうかで、評価が分かれるんじゃないでしょうか。

松田優作はドラマ「探偵物語」で、この映画をパクったとみずから公言していますが、いずれにせよ、公開当時この映画のかっこよさを理解した目利きはたいしたものです。ちなみに主役のエリオット・グールドは「オーシャンズ11」で、オーシャンたちの後ろ盾となる金持ちの役で出ていましたね。いろいろ悪いことやってそうなジジイで最高の演技でした。
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