映画漬廃人伊波興一

ロング・グッドバイの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

ロング・グッドバイ(1973年製作の映画)
4.1
いかなる法則の類にも頼らずに回り続ける孤立した自転軸 
ロバート・アルトマン「ロング・グッドバイ」

ある周期で繰り返し観たくなる映画というもの。
それが出来上がった作品が傑作であるか、否か、とか
映画史に残る(名作)である必要などさらさらなく、長い歴史の中でどれだけ孤立しているか、が重要な点だと思います。

ロバート・アルトマン作品はたとえその殆どを失敗作と言われても、その孤立性は、地球が平均約24時間周期で回っていることなど知ったことでない、とでも言いたげに独自の自転軸で私たちを巻き込んでいきます。

「長いお別れ」という邦題をもつ世界的に有名なチャンドラー文学が原作であっても、「ロング・グッドバイ」という映画はハードボイルドという軸で回っているわけではありません。
この世に数多(あまた)いるモラトリウムや売れない文筆業者の如く、独自の自転軸で生活する者が、たとえ午前1時でも、昼と決めれば昼になり、午後13時でも夜と決めれば夜になるのと同じように、アルトマン作品は彼自身の望み次第で速くも遅くもなり、時には停止さえします。

別の所でも言及しましたがロバート・アルトマンほど観ている私たちの手を焼かせてくれる映画作家は少ないと思います。
(こんな奴の映画、二度と観るもんか!)と思わせた「М☆A☆S☆H」の作者と「ストーリーマーズ 若き兵士たちの物語」の作者がなぜ同じなのか?
「ギャンブラー」があれだけ許せぬ映画なのに「ポパイ」の無茶ぶりがどうして好きになれるのか?
それどころか「フール・フォア・ラブ」のような下請け仕事まで余儀なくされたような彼がどんな経緯で「ザ・プレイヤー」「ショート・カッツ」「プレタポルテ」のような企画が実現しえたのか?
全ての秘密はアルトマン独自の自転軸にあるかもしれません。
それを探るべくいまだに飽きずに未見の作品を探しております。