Kumonohate

サザエさんのKumonohateのレビュー・感想・評価

サザエさん(1956年製作の映画)
3.7
1956年。江利チエミ主演による実写映画シリーズ(全10作)の記念すべき第1作。マスオさんと知り合ったばかりの独身時代のサザエさんが巻き起こす騒動が、コミカルに描かれる。

とにかく、ただただ楽しい。

例えば、サザエさんが次々にしでかすヘマや粗相の犠牲者たちが、後々になって再登場してサザエさんの何かを左右することになる、などといった複線やら暗示やらは一切無い。複雑な物語構成や予測不能の展開とは無縁に、ストーリーは、単純かつストレートかつポンポンと明るく進む。その結果、観ていて小難しさやストレスなどを感じること無く、ケラケラと笑いながら無心に楽しむことが出来る。

だから、ウケるのだ。

「サザエさん」は、本作を含め、実写映画2シリーズ・実写テレビ番組4シリーズ・舞台4シリーズ・アニメ2シリーズ・ラジオドラマ2シリーズ等々といった二次展開が、現在に至るまで進行中のモンスター・コンテンツである。そして、そのモンスターたる理由の一つは、おそらくは、本映画にも受け継がれているこの “肩肘張らずにリラックスして鑑賞できる” 内容であること、だろう。

だが、理由はそれだけではあるまい。時代を超えて多くの人々に支持される普遍的価値が「サザエさん」にはあるハズだ。そして、おそらくそれは、“家族” に関する何らかの価値だろう。

本作のラスト・シーン。磯野家ではクリスマスのホーム・パーティーが催される。出席者は、波平・舟・サザエ・カツオ・ワカメの一家に加え、新婚ホヤホヤのいとこ夫妻、カツオやワカメの友人、そしてマスオである。日頃より和装の波平と舟はともかく、この日に限り、普段は洋装のサザエも和装でおめかしする。雪の降りしきる夜、典型的な純日本家屋の畳間で、和装洋装入り交じった家族友人が、ハート・ウォーミングに食卓を囲むのである。そして、そんな磯野家の団欒の様子は、戦争が終わり、平和と進歩と平等と自由と経済発展を理想に掲げて歩き出した、当時の幸福な日本の姿そのものであるように見えた。

「サザエさん」が支持されるもう一つの理由。それは、幸福になれることを信じて未来に進みながらも、その代償として生じる様々な社会問題が未だ顕在化していない、そんな希望だけから成る絶妙の一瞬を歴史から抽出し、その一瞬を磯野家というファミリーに定着させ永久に固定化したことにあるのではないかと思った。
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