Kumonohate

ONODA 一万夜を越えてのKumonohateのレビュー・感想・評価

ONODA 一万夜を越えて(2021年製作の映画)
3.9
「ONODA 一万夜を越えて」観了。

30年近いルバング島での小野田さんの人生は、私ごときの想像など遥かに超える。だから知りたい。彼をして密林生活を継続せしめたものは何だったのか。上官の命令? 軍人の心得? 裁かれることへの恐怖心? 彼はどんな人物だったのか?英雄? 犠牲者? 殺戮者? 豪傑? 気弱? 精神力の強い人? 猜疑心に富んだ人? 密林での生活はどのようなものだったのか? 共に暮らした仲間との関係は?

そんな「?」がいっぱいあるからこそ、本作を観ないわけにはいかなかった。そして作品はたいへん満足のいく内容だった。なるほど、こんな出来事があったのか。こんな風に生き抜いてきたのか。いくつかの「?」は解けた気がした。

だが、一方で小野田さんの内面についての「?」は、一向に解答を得られなかった。いや、むしろ「?」はいよいよ深まった。何故、彼は出て来なかったのか? 彼は何を思いどんな気持ちで生きてきたのか? 日本の敗戦をいつ知ったのか? モヤモヤは増す一方だった。

もちろん、本作は「事実をベースにしたフィクション」なので、描かれている小野田さんが実像とイコールであるハズがない。そうである必要も無い。ただ、見終わって「?」が深まったということは、本作に描かれている小野田さん像が、私にとってはどこか腑に落ちなかったということなのかもしれない。

小野田さんが日本に帰ってきた当時、子どもながらに印象深かったのは、口角に常に泡をためているその口元だった。うまく表現できないが、当時私が持っていた軍人のイメージからは遠かった。一方で、よく覚えているのは、記者会見か何かのニュース映像だ。射殺された小塚金七さんのことを記者が質問したとき、それまでは静かに丁寧に質問に答えていた小野田さんが、語気を強めて怒りを露わにした。少なくとも私にはそう見えた。「この人は怖い」そう思った。

本作でも「怖い」小野田さんは描かれている。だが、私が勝手にイメージしてきた小野田さんは、それとは別種の怖さを持った、もっと複雑に入り組んだ底知れない人だ。鑑賞後にモヤモヤが増したのは、このギャップが原因かもしれない。

とはいえ、冒頭に書いたように、30年の密林生活など、とうてい想像の及ぶ範囲では無い。そこには色々な出来事があっただけでなく、様々な思考があり性格があり感情があり、それらは複雑に入り組んでいたことだろう。そうなのだ。本作の制作者が感じ取った人物像など、そして、私が感じる様々な「?」など、一切合切は小野田さんの中に楽勝で内包されていたに違いない。
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