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キンキンのルンペン大将のotomisanのレビュー・感想・評価

キンキンのルンペン大将(1976年製作の映画)
3.4
 キンキンの「寝かせねぇぞ」な口八丁ぶりを思い返すと冗談大将も納得なんだが、この「大将」、自衛隊なら政軍連携の要、統合幕僚長かなんか。考えてみると偉いもんである。ルンペンなんて敵が多いんだから手八丁も加えて、頼りないはみ出し連中の、連中による、連中のための平和維持に名乗りをあげればいい。そんな仕事には誰か働き者が要るのである。だが、そんな働き者が何でルンペンなんぞに甘んじる?

 そのわけは、この清十郎、働けば働くほど周りが迷惑するから。そもそもそれがためカミさんにとっちめられて「髪結いの亭主」にすら落ち着けず田舎ぁ出て上野さ流れついたあんべえだが、根っからのトンチキ野郎でどこに勤めてもたちまち迷惑かけてやっぱりおん出される。
 おん出されて消える。これもまた「蒸発」という事か?傍目にはなに不自由ないはずの人さえ不図、ふわりと行方をくらませて上野あたりだの、どこかの下町で空き地の土管の中だのでルンペンなんかでいたりして、「これでいいんです」とか言ってるのがテレビのドキュメンタリーなんぞで不思議がられたもんだ。もちろん心理学者や社会学者がしっかりコメントして稼いでいたわけだが。
 さて清十郎、そんな迷惑野郎でも人柄はいいときた。で、困った者同士、同郷の失業おん出され娘、秋子になにくれとなく世話を焼いちゃあズッコケて、それでもふたりとも人のよさでほろほろと傍目にゃ親子のように繋がってゆく恰好だが、そりゃあ親子ほども違うんだし、清十郎キンキンも車寅次郎的に退場してゆくわけだ。

 その車寅次郎的というのだが、憚りながら寅次郎がまだしもアニキと呼ばれ、渡る世間で四角く風を切ってゆくのに比べ、こちら一般世間から不名誉除隊の清十郎はなんともぐにゃりとへたりとのたくっていつになったらルンペン大将に昇格するやら?
 すると折も折、現職大将、伴淳オヤジが遂に往生してしまう。これで上野の裏社会のパワーバランスがぐらついてしまうはずなんで。
 おやじさん、生前はウルサイ警察にがめつい故買屋、キ印な愚連隊、狡すっからいヤクザ屋さん、しゃらくさい美化好き市民なんぞを宥めてケムに巻いて丸め込んで足を掬ってと大忙しだったろう。

 そんな事もお構いなしの清十郎は就職何十回目の遊園地で、自分でぶっ壊したナポレオン大将の蝋人形に自ら扮する罰ゲーム中、かの秋子ちゃんの告白を受けてしまって二人楽しく婚約披露ダンスパーティーの大狼藉。
 最後の最後でそれが秋子ちゃんのこころのお父様へのお別れ挨拶と気付くんだが、やれやれ、涙の河を渡ってトンチキ野郎も一皮むけてゆくんだろ?
 秋子愛を封印して一般社会から足を洗った続編ではきっと風雲急な上野ルンペン界で謎活躍を挙げるはずだろうが、そんな想像もつかない此度はインチキ大将から一転、三等兵での幕切れ。遊園地の今日はお終い、キンキンも今日でお終い、上野の灯りがなつかしいなぁ。しかしながら、後日談キンキン大将の上野戦争編はどうやら検閲に引っ掛かったようだ、そっちこそ本編なんだろうに。
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