松井の天井直撃ホームラン

男はつらいよ 純情篇の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 純情篇(1971年製作の映画)
-
↓のレビューは。今はもうなくなってしまった映画レビューサイトに、鑑賞直後に投稿したレビューを。こちらのサイトに移行する際に、以前のアカウントにて投稿したレビューになります。

☆☆☆★★

永遠の放浪男=車寅次郎シリーズも、後期はシラノ化していたが。当然ながら、初期作品では簡単に一目惚れしてしまう性格故の数々なドタバタ劇で観客を笑わせていた。

今回のマドンナ役若尾文子を、一目見た瞬間のデレデレ感すら。直前でのおいちゃん、おばちゃんを目の前にした時の、やり取りのギャップの面白さ。博の独立騒動を前にした、寅の余りにもいい加減さ…と、同時に発生する。

「相談するこちらが悪い」

…と、周りが感じる空気感等は大いに笑わせてくれる。

勿論、それらの要素は大変に面白いのだが。個人的には、この作品で面白く感じた部分が幾つか有った。

先ずこの作品が、最初に登場する宮本信子演じる若いお母さんが、不安を感じながら故郷へ帰るエピソードで始まるのですが。映画は序盤で幾度となくこの〈故郷〉を強調する。

以後、舞台はほぼ柴又で繰り替えされる為に。このキーワードである〈故郷〉は、見ている観客には暫くの間、忘れ去られる事となるのだが。いつも通りに、お約束の如く繰り替えされる妹さくらとの別れの場面。その瞬間で、突如としてこの〈故郷〉とゆうキーワードを観客に思い出させる。

このシリーズの基本的要素は、マドンナに寅が恋をする。そしてそのマドンナの為に、寅が奮闘努力するものの、結局その恋は当然の様に叶わない。

この作品でも。初代おいちゃんと、二代目おいちゃんとが、同一場面に登場するフアン垂涎の場面を挟みながら。毎度お馴染みな、寅の勘違いが炸裂するのだが…。

あくまでも個人的意見ですが。この作品に於いては、いつもの様に。

寅の〈心の故郷=柴又〉では無く。

〈心の故郷=さくら〉なのではないのか?と、ついつい考えてしまった。

実際問題、シリーズのフアンならば、度々感じては居るだろう。寅がさくらに対する、時には過剰な想い。
それ自体は承知の事実だと思う。

恋愛関係とは異なる、妹想いでは有るのだが。
この作品では、寅が柴又に帰る場面等は、船の汽笛を聞いた瞬間にいきなり「さくら〜!」と叫んだ瞬間に、脱兎の如く走り出したり。
毎回、作品終盤に必ず繰り替えされる、旅に出る寅とさくらとのお馴染みの場面等。

後々の作品では、お金の無い寅に対し。さくらが幾らかの金銭を渡したり…といった場面となるのだが。
この作品での、さくらとの別れに於いては。完全に恋人同士の別れの如く見えてならない。

それらの、薄口な近親相○的要素を、監督山田洋次が意図的に作品に入れたのか?…は想像するしか無い。
おそらく本人に聞けば、百パーセント否定するに間違いないだろうが。そう見えてしまう事実は隠し様が無い。

最も、シリーズのフアンならば。寅が抱く理想的な女性がさくらなのではないか?…は、承知の事実だとは思うのですが。

もう一つこの作品で面白かったのは演技合戦。

ゲスト出演で、出番自体は少ない森繁と、渥美清との絡みは素晴らしかった。
正に、渥美清=車寅次郎ここに有りと感じさせる台詞の数々で、独特の空気感を画面から発する渥美。

それに対して、柳に風の如く受け流す飄々とした味を出す森繁。
特にラストシーンでは、小津作品に於ける笠智衆の様な雰囲気すら漂わす。
シリーズ以前から監督山田洋次が。小津作品を意識した映画製作をしていたらしいのは、最近のインタビューを見て知ってはいたが、改めて見ても興味深い。

そして今回のマドンナ役若尾文子と倍賞美恵子との演技合戦。

大映(当時)の大スター若尾文子からすれば、完全アウェーの状態の筈だが。そこは数々の大監督と仕事をこなして来たキャリア故か。画面上からバチバチと発する火花。
溝口作品を始めとして、数多くの作品で活かされたあの小悪魔演技が。松竹大船作品で発揮されるこの刺激。

そしてその際に発揮されるオーラ満載な貫禄。

個人的には、一方的に若尾文子の方から仕掛けている様に見える為に、2人の間で醸し出される独特な緊張感。
おそらく、相手した倍賞美恵子にすると、神経が擦り減る時間だっただろうと想像出来る。
それでも、作品の核を成す役として、正面から受け止めているのが印象的だった。

劇場鑑賞 日時不明 銀座シネパトス3?