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アイガー北壁のKHのネタバレレビュー・内容・結末

アイガー北壁(2008年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画を鑑賞した後のエンドクレジットで流れる音楽の歌詞でホント嫌な気分なる。挑戦する人生を讃える歌詞が人生讃歌というより呪いに聞こえる。
一般的に「挑戦」とか「前進・進歩」みたいな概念は人々の心に人生の中で価値ある概念として根付いていってしまうが、人のそういう根付いた人生の価値観に他人がつけ込んで人を危険な道へと誘い死に至らしめる呪いの話に思えてならない。

自分にとって好きなことだから能力を活かして自らの意志で挑戦しているだけなのに、そこに高みの見物をしてるだけの他人が寄って来て勝手にその能力に目をつけて利用してその人の人生なんかお構いなしに自分の利益や欲望を満たそうとするのであるから映画を通してえげつない人間の所業を目の当たりにさせられる。

過酷な環境で「人命」か「挑戦」か選択を迫られて「人命」を選んだことでやっと「挑戦」の呪縛から解き放たれたがその時はもう「まだ死にたくない」という叫びも虚しく人喰い鬼オーガに飲み込まれるところだった。
何とも辛い。
あの登山家達は心に他人から気付かれないように「挑戦」という呪いをかけられて死んで行ったも同然である。

登山を好きでやってる者に対してあれ程過酷な世界への「挑戦」をそそのかすという呪いをかけたり、国威発揚に利用するなど腐れきった現実の環境があったわけだが、現在でも人生のある特定の価値観につけ込んで無理強いをさせようとする行為は日常の、例えば労働環境とかでも時折見られるのが現実である。

人それぞれが異なる生きる世界を持っているからこそ他人の生きる未知の世界を尊重できて放っておけるはずなのにそうはしない。個人の尊厳や個人の世界を踏みにじる人間の所業の危うさに焦点を当てたストーリーとも取れる。

こうした解釈のもと、エンドクレジットの曲を聴くと本当に怖い歌に思える。
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