最新を観た後は最古。昭和8年、日本における最初のミュージカル映画。駅のホームで働くビール売りの娘、同じくアイスクリーム売りの若者、ヒット曲を作ってしまった音楽学校の学生による淡い三角関係が描かれる。基本的にはコメディだが、ラストはチャップリン映画っぽくホロリともさせられる。
映像音声ともに良好で、見ぐるしい聞きぐるしい箇所はほぼ皆無。芝居から歌唱への繋ぎがたどたどしいのは、最初のミュージカル映画なんだから情状酌量の余地あり。駅のホームや発着する列車がベニヤで作ったみたいなセットなのは、味わいのうちだろう。
昭和8年といえば、戦雲既に垂れ込めている時代だが、映画の中はまだ明るい。大らかに愛を語り、大声で笑っている。こういう世相だからこそ明るいエンタテインメントを、という反作用が、映画人たちの間にはまだ生まれ得ていた、という時期だったのだろうか。
そうした時代の空気をあれこれと想像できるのも、この時代の映画を観る楽しみのひとつである。