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大いなる幻影 Barren Illusionの一のレビュー・感想・評価

大いなる幻影 Barren Illusion(1999年製作の映画)
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ウッ…素晴らしい。少ない台詞と空白のキャラクター。ただでさえものすごくあやふやなのに、男(武田真治)は文字通り透明になり消えてしまう。終盤、“ここじゃない何処か”を目指す女が駆け出していく海は外部との隔たりでもあり繋がりでもある(『神田川淫乱戦争』はまさに川を隔てて繋がる映画だった)が、そこに流れ着くのは白骨。それを見た女は「もう終わっちゃう」と取り乱す。「僕がいるだろ」「どこにいるの?」「ここだよ」「ここってどこ?」この男女の会話はそのまんまのことを言っている。その後、黄色い扉のこちらとあちらで一旦別れてしまった二人は、これまた象徴的なビニールの膜がぶら下がった郵便局の窓口の内側で、それぞれ強盗と局員として再会する。そのときには、女が男をこちらへ引きずり込むのだ。覆面を剥がれた男は壁際にへたりこむと透明になり消えてしまう。女は消えた男のいた場所を見つめ、二人の間に倒れかかった脚立を取り除いてそこへ近づいていく。女の伸ばした手がいつの間にか出現している男の肩を叩くと、その手をとって男は立ち上がる。郵便局の前の階段に所在なさげに並んで座る二人の姿で映画は終わる。美しいなあ。男が情けないのはムカつくが、僕も情けないのだから仕方ない。
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