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喜劇 男の子守唄の一のレビュー・感想・評価

喜劇 男の子守唄(1972年製作の映画)
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チンドン屋フランキーと、かつて戦災孤児であった自分を拾って育ててくれた売春婦お竜の息子・太郎、隣人の三流ホステス倍賞美律子がロールプレイするニセ家族。『喜劇 命のお値段』や後年の『喜劇 家族同盟』でも繰り返される“ニセ”のモチーフがやはり登場する。そして『喜劇 日本列島震度ゼロ』にもあったカタストロフへのある種の憧れは、ここでは東京大空襲の焼け跡・戦後の闇市に対するノスタルジーとして噴出する。1944年の焼け跡が火事とコスチューム・プレイによって1972年に再現されるエンディングが素晴らしい。回想と現在でそれぞれ一人二役を演じる倍賞と子役の小松陽太郎が、1944年の「親」≒お竜と「子」≒子供時代のフランキーとして1972年に蘇る瞬間、今まで観てきた前田映画の中でも最もストレートに感動させられる。当然オレはまた泣いている。劇中序盤で悪人として登場した金貸しババア・ミヤコ蝶々と闇市成金・森川信をも焚き火を囲む輪に包摂する優しさにも涙。『日本列島震度0』では灰田勝彦の歌う“東京の屋根の下”(1948)が非常に強い印象を与えたように、本作で取り上げられる菊池章子の歌う“星の流れに”(1947)の使い方もホントにイイ。娼婦をモチーフにした暗い歌謡曲だが、思えば前田陽一の監督デビュー作は赤線を舞台にした『にっぽん・ぱらだいす』だった。
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