映画漬廃人伊波興一

美しき結婚の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

美しき結婚(1981年製作の映画)
4.3
(100年前の女の直感)が残っていると夢想する女による、思わず笑みがこぼれる片想いの譚詩(バラード)

エリック・ロメール
「美しき結婚」

それまで仲良さげな他人の関係が微妙にこじれていく推移ほど面白いものはない。
そのうち一人が、なぜ自分が拒絶されるのかを全く理解できない女性なら、尚更面白い。

そんな女性はどんな局面を迎えようと最終的には必ず自分に対して肯定的であるから悲劇と呼べるような事件など起こるべくもない。
だから私たちは全てを他人事として無責任に笑っていられます。
「緑の光線」や「飛行士の妻」のマリー・リヴィエールも、「海辺のポーリーヌ」のアマンダ・ラングレも、「満月の夜」のパスカル・オジェも、さらには「友だちの恋人」のエマニュエル・ショーレからこの「美しき結婚」のベアトリス・ロマンに至るまで親友や異性、恋人、セフレなどの間を自由に泳ぎ回るうちに広がる小さな波紋は決して収集不能に陥る事はないのです。

彼女たちのような女性、恐らくは、現在でもどこかで必ずいるだろうし、これから未来永劫現れるだろうし、きっと千年前の昔にも存在していた筈。

ですが私たちが、そんな彼女たちの所作をシニカルに笑う事に対して、いかにもゴシップ好きのような不謹慎さを自覚します。
にもかかわらず、不謹慎さが増すごとに、その誘惑を拒むことが極めて困難なのは、日本列島が未曾有の天災に襲われた後であろうとも、世界が未知のウィルスの脅威に怯ていようとも、著名人の不倫、離婚、不祥事などが(驚きと失望と落胆)に匹敵するくらい(好奇)の視線を絶え間なく集めてしまうことでも明らかです。

他人の右往左往を観ている私たちはどこか俯瞰の位置を自覚していますが、勿論そんなものは錯覚にすぎません。
すべからく恋愛を含めた人間関係というものは、自分が相手よりも優位に立っていると自覚している時が最も安定しているわけですから。

優位な立場でもないのに優位と信じきっている者への鏡として、ロメールは彼ら彼女らを用意していると否が応にも気づかされます。

ロメールが描く、片想いの詩譚(バラード)に思わず笑みがこぼれてしまう私たちはまだまだ彼の掌の上のようです(笑)