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美しき結婚の堊のレビュー・感想・評価

美しき結婚(1981年製作の映画)
4.6
25歳の美術史を学ぶ院生(あと6週間で修士論文を書かなければならない)って俺やんけ。「本当の愛が欲しい」ね…。「死にたくないけど誰よりも早く死にたい」ね…。
平凡な人たちを嫌悪したいけれど、自分が非凡である線引きなんて自分にはできなくて、自分じゃない誰かを求めるけれども愛されるはずもなく、知らないババアにぶつかってしまう。
砂糖を手で転がしながら腕をかきむしったり、人の長い話が聞けなかったり、自分で人と話しながら視線がさまよったり…そんな主人公のADHD仕草ひとつひとつのリアリティがすごくて、それはどこまでも嫌悪したい造形なのだけれど主人公と「同じく」自分自身と線引きができないから、何もかも忘れたい(けれどもちろん忘れられない)。このオチのつかなさ、藤子Aの『今日までそして明日から』にも似た蟻地獄のような(でも誰かの目には希望のように映ってしまう)ラストこそがなんとなく心地いい。「やわらかい地獄って天国にも似てるよね」。スクリーンに穿られた緑の鼻クソを見たぐらいで変わってしまう人生よりも、同じ失敗を同じように、違う場所でまたふたたび行うことを予見させるこの作品のラストの方が愛らしい。ブサイクなテクノも悪くないと思ってしまうよ。
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