千年女優

砂の女の千年女優のレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
4.5
昆虫採集を趣味とする既婚の男性教諭で、夏の休暇を利用してとある村に位置する海岸へと訪れて砂場に生息する新種のハンミョウの採集に興じる仁木順平。没頭するあまり最終のバスを逃して村長から一泊するための宿を紹介された彼が、砂穴に建つ未亡人の女がひとりで住む家へと閉じ込められて脱出を試みる様を描くスリラードラマです。

第二次戦後派作家として活躍して「ノーベル文学賞に最も近い人物」とも称された安部公房の代表作を、いけばな草月流の創始者の息子であり東京美術学校で前衛芸術を学んだ勅使河原宏が映画化した1964年公開作品で、その芸術性の高い作風が日本のみならず海外でも称賛されて日本人初のアカデミー賞監督賞へのノミネートを果たしました。

この後にも二作で実現することとなる安部公房の原作、勅使河原宏の監督と脚本、武満徹の音楽が混然一体となって意味深な世界観を作り上げていて、この寓話が突き付ける現実が背筋に寒気を走らせます。戦後の資本主義社会における日常生活の生産性のない不毛ぶりと、それにすら溺れてしまう人の姿は現代に至るまで変わらぬテーゼです。
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