イスケ

風と共に去りぬのイスケのネタバレレビュー・内容・結末

風と共に去りぬ(1939年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

映画や小説に一切触れてこず、物語の筋すら知らなかったので、てっきり普遍的な純愛ものなのかと思っていたら、まさかこんな話だったとは……なかなか癖ツヨで驚いた。

中でも(誠に勝手ながら)イメージと全然違った点は大きく2つ。

1つは、スカーレットが「純粋で応援したくなる娘」ではなく「(敢えて言うよ)正真正銘のクズ女」だったこと。
もう1つは、時代を超えて愛される作品らしからぬ、黒人奴隷を肯定するような描き方だったことです。



1つ目のスカーレットのクズ女っぷり。

いや、そうは言っても、
「そんなスカーレットが改心していき、そして……」という物語かと思ったんですよ。
それが開始200分を過ぎてもなお酷いw

一方でメラニーは聖母マリアのようで、スカーレットとは真逆の存在として登場する。
彼女は彼女でイカれた性善説を持っているのでw、なかなか凄いんですが、とにかく信頼のおける魅力的な女性であることは確かなんですよね。

でも、メラニーが自分の身近に居たらどうか?
彼女の完璧さに自分のダメなところばかりが見えてくる危険性を孕んでいると想像できるのです。

その点、スカーレットを見ていると、

「こうやって生きたって良いんだ」

という自由や希望のようなものを感じることができる。それは完璧なメラニーが持たないもの。

そう、いつしかスカーレットの謎の魅力にハマっている自分を発見できちゃう寸法なんだよこれw


アシュレーなんかを見てると、一見ちゃんとした人に見えるんだけどねー。

でもレット曰く、「心で不貞を働きながら実践できん軟弱なやつ」というのは言い得て妙で、自分から積極的にはいかないくせに綻びだらけでグラグラしまくりですアイツ。

その一方で、スカーレットはクズな行動を取り続けるものの、
「アシュリーを好きという気持ち」「金のためなら何でもするという行動力」など、揺らぎが全くない。「自分」がしっかりある。

男を犠牲にして自分の目的を達成するたくましさもある。
(結婚して30秒ほどで戦死しちゃうチャーリーには苦笑)

「盗んだことより投獄されたことを後悔する泥棒と一緒」
と言われたりもするけど、もうそれも清々しいじゃん!それでいいじゃん!って気持ちになる。そんなパワーを持ってるんだよな。


最後の最後で、自分を愛してくれた人たちは、みんな去ってしまいます。
気づいた時には、時すでに遅し……

そんな鉄槌を下すオチ(メッセージ)なのかと思いきや、

「別れるなんてイヤ!どうしたら戻ってくれるの。考えつかないわ。頭が変になりそう。明日考えるわ。」

という迷台詞が飛び出して、見事復活してしまうというねw

これだけ色んな人を引っ掻き回してなお、スカーレットは明日への希望を見出して終わる。

「スカーレットなら、きっとまたたくましく生きていくんだろうな」

という想像がつくし、なんだか分からんけど元気が出る。
予想の斜め上で素晴らしい結び方だと思いました。

ただの良い人よりも、ムカつくことも多いけど自分を持っている人間に魅力を感じるというのは普遍的ですね。



もう1つのイメージと違った点は、黒人奴隷を「古き良き思い出」として語っているところ。
映画史を語る上では外せないけど、同時に汚点にもなっている作品といえば、「國民の創生」でしょう。

「國民の創生」では、黒人は何を考えているのか分からない存在として描き、案の定やらかします。
そこに現れる黒人を罰するKKKを格好良く描いてしまっているというところが、多くの人が「これは罪深い作品だ」と感じる要因の1つでもある。

本作では、黒人奴隷という立場ではあるものの、タラの屋敷で過ごす黒人たちは家族とも良い関係を築いています。マミーは遠慮なく意見もします。
では、國民の創生で描いているものとは違うよね、と言えるかと言えば、僕はそうでもない気がします。

それが当たり前だった時代を、未来から過去に向かって責めることはできないと考えるからです。

もちろんそれにより苦しんだ人もいるわけなので「罪が無い」と言いたいわけではありません。
違う時代を生きている人間が、自分たちの価値観で捌こうとすることに意味はないという感覚です。

200年後の未来人から見れば、牛や鳥を食べている現代人を見て、
「可哀想と思う気持ちすらないの?令和ヤバくない?」と言うかもしれません。

でも、我々は言います。

「当時はみんな食べてたんだよ」。


「古き良き思い出」として黒人奴隷とともに過ごした時代を懐かしく美しく思うのは、極めて自然なこと。
黒人奴隷の描写が、作品の評価を落とすことがあるのならば、それは健全ではないなと思います。

ただ、現代でも名作中の名作として数えられる本作が、こんなに露骨に奴隷について描いていることには、率直に驚きました。


「古き良き南部」の詩に始まり、タラを想うスカーレットで終わる物語。
紛れもなく土地への愛が作品に込められていました。

愛する街をも破壊してしまう戦争が身近なものだったからこそ、より土地への愛が強かったのかなとも思ったりします。

今でもラッパーはしきりに地元をレペゼンし、地球をレペゼンしてる者もいます。それぐらい土地は偉大ですよね、分かります。


メラニーが故郷を想う時、それは土地そのものというよりは、父や母、黒人奴隷たちとの思い出も一緒なのかなと思ったりもしますね。

土地は心の故郷、心の故郷は変わることのない心の拠り所。
心に帰る場所を持つことで強くなれるんだろうなと。

ようやく気づいたレットへの愛だって人生の中では刹那な出来事ですが、心の故郷は失われることがありません。
イスケ

イスケ