パングロス

次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家のパングロスのレビュー・感想・評価

3.7
◎名匠マキノ雅弘監督のご存じ清水の次郎長伝

1953年 104分 モノクロ 東宝 スタンダード
*状態は比較的良好 コマ飛び、音声不明瞭あり

面白かった。

黄金期邦画時代劇の水準を知る。

というか、時代劇の最高権威の一人、マキノ雅弘の監督作品を久しぶりに観たが、今まで小津や成瀬が上手いと思っていたが、手だれということでは、マキノの方がはるかに上を行っていると初めて認識した。

本作の概要、解説やストーリーは、下記リンクに委ねるが、9作も続いたシリーズもの、まさにプログラムピクチャーの典型中の典型ながら、絵作りの水準は、小津、黒澤、絶頂期の市川崑らよりも優れていると言うべきかもしれない。

もちろん、物語は、講談や広沢寅造の浪曲で大衆に親しまれ、それらを村上元三が集大成した形の連載小説が原作で、通俗の極み。
ウェルメイドを地でいく作り上がりではある。

特に、シリーズ第6作の本編は、凶状持ちとして役人に追われて、泣く泣く逃走をつづけるという、陰気で見せ場が少ないエピソードだ。

しかし、どの場面も、構図がバッチリ決まっている。
さらに白黒のコントラストが絶妙で、どんな暗闇のシーンでも、月明かりや蝋燭の火、板塀の隙間から差し込む薄明かりなどを巧みに配して、そこに何があって、何が行われているか、ハッキリと分かる。
その上、その暗闇のなかの障子や倒れた柱や積み重なる荷物などによる画面の構図も、またバッチリ決まっているのだから驚異的な撮影技術だと言わなければなるまい。

役者も、次郎長親分を演ずる小堀昭男は、不遇に泣くだけで冴えないし、元関取で役人と内通している久六役の千葉信男は大根だ。

だが、終盤、田崎潤演ずる「桶屋の鬼吉」らが故郷に戻って無心し親を泣かせたあたりからドラマが活況を呈し、追分の三五郎(小泉博)が置き去りにした女房お園(越路吹雪)の家で、捕り方とのチャンバラが派手に行われ、ちゃんと盛り上がって次作に期待を持たせて終わる。
(本編では、「終」のあと、第七部の予告編がかなりの尺で流れた。こういうパターンは初めて観た。)

邦画における時代劇は、決して保守的で旧弊な時代遅れなものというばかりではなさそうだ。
マキノ雅弘の映画技術は、欧米のそれを手本に、独自の洗練を加えたものと見受けられたからだ。

ますます、邦画全盛期の諸作品から目が離せない。

*0 「次郎長三国志」で検索
ja.m.wikipedia.org/wiki/

*1 次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家
1953年12月15日公開、104分、時代劇
moviewalker.jp/mv23717/

*2 デイリー・シネマ
2024-04-26
映画『次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家』あらすじと感想/マキノ雅弘による傑作シリーズ第六弾は次郎長一家の悲壮な凶状旅を描く
www.chorioka.com/entry/2024/04/26/005345

*3 映画『次郎長三国志』シリーズが、とんでもなく面白い!
Junya Watanabe | 渡辺順也
2021年3月26日
note.com/junyawatanabe/n/ne010f774cc17

*4 次郎長三国志
LAPUTA ASAGAYA
www.laputa-jp.com/laputa/program/jirocho_sangokushi/

《上映館公式ページ》
生誕百年 女優特集・第2弾
〈宝塚歌劇出身の2大女優〉
越路吹雪と淡島千景
2024.4.29〜6.7 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/koshijiawashima/koshijiawashima.html
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