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男はつらいよ 柴又慕情のKuutaのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 柴又慕情(1972年製作の映画)
3.7
人生初寅さん。お正月にBSでやっていた。話のフォーマットは何となく知っていたが、文脈分からなすぎて皆さんの感想を読んでふむふむ…となっている。

・クライマックスで寅さんが「今夜は流れ星が多い」と言うくだりは、かなり見応えがあった。

画面奥を見つめる寅さん側の夜空、観客にも見えているが、流れ星はどこにもない。なんでそんなこと言ったんだろ?と思うと、切り返した彼の瞳は潤んでおり、彼の視界では、流れ星のように夜空が輝いているとわかる。

→歌子(吉永小百合)は「あっまた流れた」と言い、寅さんと反対側の空を指差す。こちらは実際に星が流れたのだろう(寅さんの舎弟が画面隅から同じ空を見ており、客観性を担保している)。振り返ろうとする寅さんだったが、歌子の横顔を見ると、何かを悟ったような表情を見せて動きを止める。頑なに歌子側を向こうとせず、引きのショットで背中を見せ続ける。寅さんの、世界に正対できない異物性が強調されている。

→恐らく歌子側の空の、流れ星が流れるショットに繋がる。つまりここで、観客含めて寅さん以外の全員の視点は歌子側の空に集中することになり、寅さんの強烈な孤独(流れ星が流れない、願いが叶わない空)は、置き去りにされたままシーンが終わる。涙で霞む寅さんの空は、寅さんの中だけに残される。

→場面転換、青空と雲。「あんな雲になりてえんだよ」の流れから再び寅さんは旅へ出る。

・最初の寸劇や、不動産屋で理想の生活を語るシーン、一見能天気に思える妄想力も、孤独の裏返しなんだろうな。好き勝手語れるはずの夢にも、さくらや博が出てくるのが本音が垣間見えるようで切ない。

・歌子の友人2人や不動産屋など、画面の賑やかしに振り切るキャラと、とらやの面々には明確な線引きがあると思った。さくらと博、結構ひどいこと言う寅さんにもきっちりした応答で切り返すし、歌子の結婚話にも冷静にアドバイスしていて、人間らしい質量を持って会話していると思えた。

寅さんも、コメディシーンや啖呵を切る場面ではわーっと行くんだけど、ふと寂しげな人間味を見せる。この緩急が魅力なんだろう(今更すぎる感想)

・歌子が寅さんとくっつくかも?という期待感はあまり感じられず、話の中心は寅さんよりも、とらやという暖かな磁場で歌子が傷を癒やし、立ち上がる点に置かれている。吉永小百合が強すぎる故の作りなんかな。
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