くりふ

アリスのくりふのレビュー・感想・評価

アリス(1988年製作の映画)
3.0
【首をハネよ!の女王は、実はだれ?】

アマプラ見放題で、久しぶりに。

ヤン・シュヴァンクマイエルの初長編だが、彼の映画としては退屈な方で、『不思議の国のアリス』の映像化としてはカナリの異色作、だと思う。

アリス役のクリスティーナ・コホウトヴァー以外、登場するのはパペットとモノ。それらがいつも通りうねアニメするが、切れ味鋭い短編に比べると冴えなくて、とりとめがない。

本作と同年に短編『男のゲーム』を作っているが、比べれば明らか。

やっぱりシュヴァンクマイエルは短編の人だと思うが、初長編で慣れなかったのと、よく知られた『不思議の国のアリス』だったら映画制作可、という何らか、オトナの事情があったのかも?これより前、政府に睨まれて映画が作れなかった時期もあったからね。

らしからぬ幻想的な自然ショットの後、アリスの暴君ぶりが匂わされた先で珍しく、彼女の語りで本作をどう見ればよいかを解説している。ネタバレじゃなかろうから書いてみると、

アリスは思いました
私は今から映画を見るのよ
子供の映画よ
たぶんね
そうだわ 忘れたら大変!
目を閉じなきゃ
さもないと何も見えないのよ

この解説で、この先起こることに、すごく納得できる。

夢、とひとことで言えなくもないが、子供部屋を外殻とした少女のインナースペースで起こること、と捉える方がおもしろい。

本作の白ウサギは剥製が動き出すものだが、現実がラストのあの状況だとすると、白ウサギの冒険とはアリスが心に描いたものだ、とも言えるしね。

ルイス・キャロルの原作は、不思議の国という異世界でアリスが彷徨い、他者である異人や異生物と交流することが面白かった。

このシュヴァンクマイエル版は、少女の勝手が許される一人称。そこが大きく違うと思う。

すごく狭い世界で大きくなったり小さくなったり、騒いだりして、それが少女の遊びであるという、仕掛け部分がおもしろい。

でも、遊びの実際は、付き合ってあげても、あまりおもしろくはない。

子供部屋のはずなのに、ナゼか骨なんかの標本があるトコロは、アブなくていいけどね。

白ウサギも、アリスは虐めるんだよね。だからウサギも意固地になる。じゃ、ラストがああなったってコトは、現実のウサギは…。

…最後のアリスのセリフ、取りようによっちゃ、めっちゃホラーだ!

演じるクリスちゃんに、演技指導は一切、やっていない気がする。美少女だが無表情だし。シュヴァンクマイエルは、少女に思い入れはないでしょう。

だから、ネットで“アリス 1988 パンツ”なんて検索ワードが出てくるほど、見せ場になっちゃっているパンチラも、意識しないで撮っちゃったものだと思う。

エロスに拘る作り手だが、さすがに幼女を、そういう目で見てはいないでしょう。

…白いパンチラには目が覚め、こころ洗われますけどね。

少女から離れすぎたオッサンが撮ったものだからこそ、素っ気なくなった面は、確実にあるかと。これが、同じくオバサンが撮ったなら、自分の幼い頃を思い出してより生々しく、感情的に物語的に、さらにおもしろくできたようにも思います。

私はシュヴァンクマイエル映画と捉えたのでイマイチでしたが、アリス映画とするなら、価値ある一作だとは思います。そこは、異論ナシ。

<2023.2.18記>
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