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アリスの都部のレビュー・感想・評価

アリス(1988年製作の映画)
3.9
原作である不思議の国のアリスはあくまでも物語の元ネタ程度で、本作の実態はといえばシュールレアリスムに基づくグロテスクな世界観での少女の冒険である。幻想嗜好の散文的な物語を、演出を糸として物語の形に継ぎ接ぎにしていく物語は魅力的であり、実写とストップモーションのなめらかな表現の交差は見る者に無二の没入感を与えている。

眼球や肉片また昆虫など生理的な嫌悪感を煽る存在の、パンチラインとミニチュア感を意図的に表現する小道具に併せたストップモーションの駆動は偏執的とも言える素振りで、その非生命感が逆に奇妙な脈動を感じさせる。小道具の扱い方ひとつを取っても変則的なそれが交じ入り、無軌道な物語として進行していく。時計バターが特に印象的。与えられた役割を拒絶するような物品の弄び方が度々意表を突く形で挟まるのだ。

映画は音により形作られる──と、私は考えているが本作におけるSEと環境音の拘りは前述のそれ以上に強烈で、ともすれば酩酊感にも似た独特のリズムを形成しているからか、演出疲れを許さず最後まで物語に釘付けにする働きが見られた。絶妙に不協和音として耳に残る音を選んでいるのも厭らしく、アリスによる物語の平易とした語りがより際立つ。

不勉強ながらヤン・シュヴァンクマイエルの作品は初めて目にしたのだが、その表現の引き出しの多さやカット割りによる空間の構成力の高さに驚いたし、特にサイズ感を強調する拡大と縮小の捉え方がとても良かった。
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