垂直落下式サミング

アリスの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アリス(1988年製作の映画)
5.0
Amazonプライムで再鑑賞。
初見は、八分割くらいに切り分けられたニコニコだかYouTuberにアップロードされた動画でみた。ごめんなさい。こんなのがみられるのに、年会費5900円のアマプラ。すごい時代になった。これだけ軸足にしときゃあ、他のは程ほどでいい。
手の針金を噛みちぎった白兎は、胸から砂屑をダダ漏らしながら、時計を確認しては大慌て。そいつを追って、前髪重いアリスちゃんが変な世界を大冒険。
一見するとガーリーな世界だけど、ゴミクズ芥がガチャガチャと散らかっている。ヤン・シュヴァンクマイエルのアトリエのなかでは、ガラクタや塵ゴミにまでもが命が吹き込まれ、お人形たちが勉強机とお台所を木屑のなかにひっくり返した世界へとトリップする一方で、同時にモノはモノでしかないという残酷なまでの現実も突きつけてくる。無機物は無機物たれ。命はかりそめだから美しい。この感性は唯一無二。
子供の手の届くところにあるけれど、不用意に触っているのをみるとヒヤヒヤする小道具(画鋲、クリップ、ハサミ、釘など)を、ポンッと軽く出してきて緊張をあおってくるあたり、なかなかに意地が悪い。
かわいいアリスの行動も、いちいち危なっかしい。小さな扉の向こうや得たいの知れない引き出しの中を屈んで顔を近づけて覗き込むところとか、瓶のなかに入った変な色の液体を指ですくって口に含んじゃうのとか、そもそもガンギマった眼で歯をカチカチ鳴らすイカれ白兎に、無警戒にはなしかける強社会性がヒヤヒヤもの。原作の支離滅裂さと若干の危険な香りを、そのまんま映像に置き換えることに成功していた。