Tully

ギルバート・グレイプのTullyのレビュー・感想・評価

ギルバート・グレイプ(1993年製作の映画)
5.0
ジョニー・デップが「罠にとらわれたやりどころのない怒り」のイメージで演じたという作品。優しくて、家族がとても大事で、でもそれが残酷にも生きることの最大の足枷になってしまう。知恵遅れの弟も夫を亡くした悲しみの余り、過食に走ってしまった母親も。人にとってもっとも強くその人を縛るのは、もしかしたら、愛する者の存在なのかもしれないという逆説。愛していなければ簡単に切り捨てることができる。愛しているから、傷つけたくないから自分を殺し退屈な日常の中で死人のように生きている。彼女の持つ眩しいほどの自由。それを目の前にしたとき、ギルバートは初めて揺れ動き、狼狽える。弟の存在も忘れてしまう。とにかく脚本も演出もすばらしい。平凡な日常の中の大したこともない出来事。でもその中に存在する迷いや屈託、憧れや温もり。派手な演出はなくても、目だけで感情を十二分に伝えるジョニー・デップはさすが。若きディカプリオも、もはや芸術の域です。ジュリエット・ルイスとの3人のシーンは、涙が出そうな美しさ。スウェーデンの監督の作品であるにも拘わらず、昨今の感情過多気味の日本映画より、遙かに繊細で濃密なある意味日本的な情緒を感じさせる。見た後にじわーっと悲しいような暖かいような懐かしい感情が残る。大事に大事にとっときたい、珠玉の名にふさわしい名作だと思います。
Tully

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