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武士道残酷物語のデッカードのレビュー・感想・評価

武士道残酷物語(1963年製作の映画)
3.8
物語は現代(昭和38年)建設会社で働く飯倉進の婚約者が自殺未遂をしたところから始まる。
進はそれをきっかけに飯倉家で代々記されてきた日記のことを思い出す。

"武士道"という名のもと、文字通り残酷な君命に自らを投げ捨てて必死に奉公しながら翻弄される飯倉家の系譜を七つのエピソードでそれぞれ描いていく。

進の祖先、飯倉次郎左衛門は関ヶ原の後信州の堀式部少輔に士官する。
その恩を感じて島原の乱で一身に責めを負い命を断つ次郎左衛門のエピソードに始まり、代々自身の命は主君のものという家訓を胸に滅私奉公する飯倉家の人々が時代ごとに理不尽な主君に残酷な目にあう姿が救いなく描かれていく。

時代も出来事、個性も全く違うそれぞれのエピソードの主役を中村錦之助が一人で演じ鬼気迫る演技で見せる。

題名から江戸期だけの話かと思っていたら、物語は明治から昭和まで続いていく。

"主君"は変わりながらも自分の命を投げ出し、周りの人々も巻き込みながら不幸へと向かっていく飯倉家の人々の姿はどこかそちらに自ら向かっていく被虐的な感情すら感じてしまう。

しかし、これは果たして「飯倉家」という特定の家系の物語なのか?少なからず日本人特有の精神構造、流れる血脈として決して他人事とは思えないものを感じてしまう。

「社畜」という言葉が使われる日本社会にあって、60年も前の映画であるにも関わらず現代的な共感を覚えてしまうのはあまり喜ばしい現実ではないだろう。

残酷描写や救いのない展開も含めなかなかきびしい映画体験ではあるが、日本社会の精神の系譜を再認識する上で一度は観ておく必要のある作品。

飯倉家の物語とは違うのだが、第4話で百姓たちに行われる刑罰が実際に戦国から江戸時代まで行われていたのだろうが状況がリアルに再現されていて残酷で、直接的描写がないだけに想像力を刺激されゾッとするほど恐ろしくなった。
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