Makiko

めしのMakikoのネタバレレビュー・内容・結末

めし(1951年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ホームドラマ、とは言えない辛気臭さ。ご飯が美味しそうなのとネコが可愛いのでなんとか持ち堪えた。

夫の仕事の都合で東京から大阪に越して3年。夫婦と夫の姪だけが東の言葉、それ以外は皆が大阪弁。同窓会で友人らが全員着物で出席する中、三千代だけが洋服。もう見ていられない。どこにも安心できる居場所がなくなっていく。「幸せそうね」と友は言う。ちっとも幸せなんかじゃないのに他人にはそれが分からない。怖いですね。
自分も「あんたは幸せそうだから私の気持ちなんて分からないでしょ」ムーブをよくやってしまい友達をなくしがちなので、ドキッとした。


それでも「不幸せな奥さんだ」と従兄に言われると悔しさに顔を歪ませる三千代のプライドの高さ。元々気高い人なのだから、別れてしまえばいいのに。東京で暮らす母親、妹も優しいんだから。そして優しく「帰ってあげなさい」と言う。もう三千代の立場ないよな。
極め付けに、三千代の東京の友人が女ひとりで経済的に困窮している様子を見せるクライマックスは怖すぎる。

どこまでも三千代の神経を逆撫でしてくる里子、叱られても諭されても全く反省する気のない、被害者意識の強い娘。父親の説教を聞いているフリであくびをするショットには、観客の微かな希望をも打ち砕くリアリティの追求を感じた。人間そう簡単には変わらないし、変わらない人間と付き合っていかなければならない。それがあのラストに繋がるとも取れるが、先が暗いエンドだった。

林芙美子の未完の遺作なのでエンディングは映画制作サイドの創作。当初、成瀬監督らはふたりが離婚するラストを想定していたのだが、会社からそれはやめてくれと要請が出たので、こんな終わりかたに。
最後のモノローグで「女の幸せなんてそんなものではないだろうか」とあるけれど、三千代にしたら半分諦めだし、私は成瀬監督らから会社側への反発と捉えた。タイトル『めし』も、おい、めし!としか言わない夫への皮肉じゃないか。

成瀬巳喜男×原節子は『娘・妻・母』に続いて鑑賞2作目。
原節子、胴が長くて身長が高いので着物を着ると様になる。スーッと笑みを消していく表情の演技が最高。ニコニコして朗らかな役よりも本作のように精神的に不安定で不機嫌な役の方が好きだ。
成瀬巳喜男の画面作りやカメラワークは洋画、いわゆるメジャーなハリウッド映画っぽいな、と思ったのだけど、小津映画の見過ぎかもしれない。
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