ちろる

赤い殺意のちろるのレビュー・感想・評価

赤い殺意(1964年製作の映画)
3.8
決して美人ではないけど、いやだからか妙にエロティックな春川ますみさんが敵役すぎる。

夫の留守中に強盗に暴行された上に、その事をネタに脅されてレイプされ続けついには妊娠までしてしまう若妻貞子。
貞子が弱き立場の女性であるが故にあまりにとひどい扱いを受ける胸糞な物語なのに、その当の貞子がおっとりとした性格なので、飄々としているように見えて滑稽に映るのがちょっと救われる今。

貞子の夫の吏一は職場で愛人囲ってるが、そんな夫や姑にまるで虫けら以下の扱いをずっと受けてきて、さらに予想外の妊娠により、
貞子は「どうしよ」「どうしたもんか」と怯え、(死なねば)と言いながら自殺を試みる。
面白いのはそんなどん底で死を強く望むのに貞子はいつだってご飯を頬張るし、夫に罵倒されても泣きながら食べたりもする。

彼女の原動力が悲しきかな夫や平岡からの凌辱あるかのように見える今村昌平の見せ方が意地悪だが妙に腑に落ちるのは、
彼女が唯一存在意義を見出せるのがSEXだけだからなのだろう。

更には歪んでるものの、今まで受けた事もないような深い愛情表現で繰り返し強く求める平岡のお陰で、絶望にいた貞子にも少しずつ自己肯定感が備わってきてしまうという矛盾。

更にはこの胸糞悪い身勝手なストーカーである平岡もまた、心臓の病にかかり、薬代も払えずに投げやりになっていたところで、貞子を抱いて心が癒されてもっと生きたいと願う。

悲劇から生まれた生命力。
人って、人生って皮肉なものである。

ここには何一つ幸せのかたちが描かれないし、この物語の先にもあるとは思えない。
人はどうしても幸せで満たされた人生を目標としてしまうが、これを観ると、「いかに強かに生きれるか?」だけでもう十分なんだろう。

ストーリーから、脚本、そしてカメラワークまで斬新だが、そのワンカットワンカットにねっとりとした今村の視点が絡み付いて、突拍子もないのに納得させられながらこの奇妙なラストを見つめる事になるのだ。

登場人物は少なく、シンプルな物語だが、この時代にしか描けない小市民としての土着的な生活に居心地悪いのに、目が離せなくなってしまう。
そんな恐ろしい映画なのです。
ちろる

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