kkkのk太郎

バットマン リターンズのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

バットマン リターンズ(1992年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

”闇の騎士”バットマンの活躍を描くスーパーヒーロー映画『バットマン』シリーズの第2作。

ペンギンとキャットウーマン、2人の怪人の登場がクリスマスシーズンのゴッサムを混乱に陥れる…。

監督は前作から引き続きティム・バートンが務める。なおバートンは本作では製作も担当している。

○キャスト
ブルース・ウェイン/バットマン…マイケル・キートン。

狂気に陥った社長秘書、セリーナ・カイル/キャットウーマンを演じるのは『スカーフェイス』『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』の、名優ミシェル・ファイファー。
原発建設を推し進めるゴッサムの権力者、マックス・シュレックを演じるのは『アニー・ホール』『ディア・ハンター』の、オスカー俳優クリストファー・ウォーケン。

ティム・バートン リターンズ!
前作から3年、よりダークに、よりマッドに、そしてよりバカバカしくなって帰ってきたバートン濃度120%の『バットマン』。口から黒い液体を垂れ流すチビハゲおじさんとドスケベレーザースーツ女王様にバットマンが立ち向かう。…こんなん子供泣くわっ!!😂
当時ファミリー向けのグッズ展開もされていたらしいのだが、この映画のおもちゃはさぞ売れなかったことだろう。本作を最後にバートンが監督から降ろされたのも、もしかしたらグッズの売り上げが芳しくなかったからなのかも。バートン自身は3作目もやる気満々だったらしいのだが…。なんとも勿体のない話である。

バートン監督の作るゴッサム・シティは、この世のどの時代、どの都市とも異なる独特の雰囲気を携えている。これはロケではなくセットやミニチュアを用いて撮影を行っているから。つまりは一から十まで空想の産物であり、そんな街の中で動物のコスチュームに身を包んだ怪人たちがどったんばったんと大騒ぎする訳だから、そりゃあもう箱庭感/作り物感が半端ではない訳です。
オペラ調のサウンドトラックや仰々しいキャラクター造形も相まって、舞台演劇を観ているような感覚に陥る本作。『リア王』や『ハムレット』のような、堂々とした悲劇をアメコミ映画でやってのけたその異常性こそ、この映画最大の特徴であり魅力であるように思います。

怒れるペンギン軍団がミサイルを撃ち込む映画なんだから、そりゃあリアリズムもクソもないのですが、それでも映画が子供騙しのおままごとに堕していないのは、同情を禁じ得ないヴィランたちの存在があるからでしょう。
身体の障害を理由に親に捨てられ、30年以上も下水道で暮らしていたペンギンの、人々に認められたい、尊敬を集めたいという野望を否定することは誰にも出来はしないだろうし、散々虐げられた挙句命までも奪われそうになったセリーナがシュレックに復讐しようと思い至るのは全くおかしな事ではない。
彼らの見た目はまるでハロウィンの仮装のように滑稽である。だからこそ、その内に秘められた悲哀や怒りがより際立つ。「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というチャップリンの言葉がぴたりと当てはまるようなキャラクター造形の巧さには舌を巻くしかない。

こんな複雑怪奇なキャラクターを演じ切ったダニー・デヴィートとミシェル・ファイファーの演技力は賞賛に値する。
特にミシェル・ファイファーの演技は天下一品!✨狂気的な表情もさることながら、しなやかな肢体を存分に活かしたアクションがまた素晴らしい。デパートで4体並んだマネキンの頭を次々とムチで吹き飛ばすシーン。あれを本当にやってのけたというのだから驚愕である。今作の彼女はオスカーを獲得しても全くおかしくないレベル。これでノミネートすらされなかったというのはどう考えてもおかしい!!ジャンル映画差別だっ!💢

今作に登場する3人のヴィラン、ペンギン、キャットウーマン、そしてマックス・シュレックは、それぞれがブルース・ウェイン/バットマンの、影のような存在として描かれている。
ペンギンとは親を失うという子供時代の悲劇が人格を歪めたという点が共通しているし、黒いコスチュームに身を包んだ二重人格者という点ではキャットウーマンと同じ。そして大富豪であり街の名士として知られているという点ではシュレックとブルースは似た立場の人物ということになる。
今作でバットマンが対峙するのは自分の負の側面が肥大化したかのような者たち。一歩間違えば自分もこうなっていたかも知れないという分身たちである。
バットマンは彼らと闘いを繰り広げるものの、結局倒すことは出来ない。銘々が自らの罪のツケを払うカタチで映画から退場してゆく。つまりバットマンは最後まで影を掻き消す事が出来なったのである。この事がもたらす寂寥感というか無情さが、この映画に重石としてどっしりと鎮座しており、ヒーロー映画らしからぬ後味を観客に与えてくれている。

本作の翌年、ティム・バートン原案/製作のアニメ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)が公開される。怪物たちによるクリスマスの奇跡という点でこの2作は共通している訳だが、この頃のバートンはクリスマスに何か鬱屈したものを抱えていたのだろうか?
何はともあれ、ヒーロー映画としては異質すぎるダーク・ファンタジーとなった本作。ファミリー向け映画では全く無いが、このくらい振り切れているといっそ気持ちが良い。
近年の『バットマン』シリーズはリアルでシリアスな方向性を目指しているようなのだが、本作のようなビザール感もまた『バットマン』の持ち味だと思う。この路線でまた一本作ってくれないかなぁ…?
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