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ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男のkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

巨大化学企業「デュポン」が引き起こした水質汚染問題に立ち向う弁護士ロバート・ビロットの戦いを描く、実話を基にした法廷サスペンス/ヒューマン・ドラマ。

主人公である環境弁護士、ロバート・ビロットを演じるのは「MCU」シリーズや『グランド・イリュージョン』シリーズの、名優マーク・ラファロ。なおラファロは本作の製作も務めている。
ロバートの妻、サラ・ビロットを演じるのは『プラダを着た悪魔』『マイ・インターン』の、オスカー女優アン・ハサウェイ。
ロバートが勤務する弁護士事務所「タフト」の経営者、トム・タープを演じるのは『トップガン』『ショーシャンクの空に』の、レジェンド俳優ティム・ロビンス。

〈第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。
この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。〉

これは新約聖書中の一書、「ヨハネの黙示録」に記されている世界の破滅に関する一節であります。
7人の天使が一人一人ラッパを吹いていき、その度に世界を大いなる災いが襲うのですが、その第三の天使が引き起こす災害こそが毒物による水質汚染なのです。

1802年に設立された超巨大企業「デュポン」。
南北戦争から現在まで、「死の商人」として火薬や爆薬、ナイロン製品やゴム製品を軍隊に売りまくって成長してきたまさに資本主義の権化。「マンハッタン計画」では核兵器の開発にも力を貸している。うーんこの…。

死のトランペッターもかくやというこの化け物に、ただ一人立ち向かった漢こそが本作の主人公ロバート・ビロット弁護士!フライパンの加工などに使われる合成樹脂「テフロン」の危険性を世界中に知らせた現代の英雄である。彼がいなければいまだにテフロンによる健康被害は広がり続けていたのかも知れない。ありがたやありがたや🙏

主演兼プロデューサーを務めるマーク・ラファロ。超人ハルクを演じたことで広く知られるようになった彼だが、実は熱心な環境活動家でもある。水圧破砕法(フラッキング)という天然資源採掘法が環境を汚染していることを知った彼は反対運動を展開。その結果、ニューヨーク州ではフラッキングの全面禁止が2015年に決定された。
2011年にはスタンフォード大学の教授らと共に「The Solutions Project 」という環境団体を設立。再生可能エネルギーのみで持続できる社会の実現のために活動を続けている。
また、自らの政治的なスタンスもはっきりと表明している。かねてよりイスラエルとパレスチナの非対称戦争状態について非難を続けており、第96回アカデミー賞の授賞式ではガザ停戦を呼びかける赤いピンバッジを胸元に着けて登場。暴力や差別を断固否定する彼の態度こそ、正しくスターとしてのあるべき姿であると言えるだろう。こういうことだぞダウニー・Jr.!😠

そんな政治姿勢をみせるラファロが、ビロットの弁護活動に共感するのは非常に納得のいくものであり、このような映画が作られたこともある意味では必然と言えるのかも知れない。
しかし、世界有数の超巨大企業に真っ向から喧嘩を売るような映画を作るなんていうのは並大抵の度胸では務まらない。彼の勇気、そして彼の下に集ったアン・ハサウェイやティム・ロビンスといったスターたちの義侠心に最大級の敬意を示したい。

弁護士を主人公にした法廷ものではあるが、本作はロバート・ビロットいう人物そのものにフォーカスが当てられたヒューマン・ドラマという側面が強い。
前半こそデュポンの悪事の証拠を掴むために捜査を進める探偵映画的な要素や、「PFOA」という謎の物質の正体を突き止めていくというミステリー要素があるものの、後半は長く苦しい戦いに疲弊してゆくロバートやサラの心理心情を描くということに終始しており、前と後ろで映画のトーンがガラリと変わった感じは否めない。正直、前半のスリリングな展開の方が映画的には楽しく、後半になるにつれて面白さが目減りしていったように思う。
ただ、ラファロが本当に描きたかったのは後半の人間ドラマ部分のはず。家族や仲間からの理解を得られず、原告側である住民たちから非難を浴びせられながらも孤独な戦いに挑み続けるロバートの姿を観客に見せたい、という制作側のビジョンは伝わってきたので、これはこれで正解なのだろう。

不満なのは妻であるサラの役割が小さかったこと。金ではなく義憤によって行動する夫のことは尊重したいが、子供たちとの生活は守らなければならないという、板挟みになる彼女の心境はかなり複雑なもののはず。ただ、この映画ではそこまで彼女の心奥に迫っているとは言えず、「夫の行動を理解出来ない妻」程度の役割で収まってしまったのは少々残念。せっかくアン・ハサウェイを起用しているのだから、もう少し彼女の出番を増やしても良かったと思うのだが。

地元に雇用をもたらし、福利厚生もしっかりした優良企業だと住民たちに信じられていたデュポン。しかしその裏では水質汚染により公害を引き起こし、あまつさえ人体実験まで行っていた。
この映画が教えてくれるのは、権力や体制を信用しその言動を鵜呑みにすることがいかに危険かということ、そして膨れ上がった資本主義は必ず澱み腐るということ。
「紅麹」による健康被害を生み出した小林製薬や、下請け業者に対し不当な搾取を続けていた日産自動車など、近年の日本でも大企業による不祥事は後を絶たない。
あまりにも既存の権力に従順になり過ぎていると、怒るべき時に怒れなくなる。ロバート・ビロットやマーク・ラファロのように、調子にのっている奴らを全員ぶちのめすくらいの覚悟を持ち続けていたいと心から思う。

「PFOAは全人類の99%の血液中に存在している」という、あまりにも恐ろしすぎるエンディングロール。デュポン社の製品を使っていようが無かろうが、知らず知らずのうちに我々もその毒牙の餌食になっているのである。…まぁこの99%という数字にどのくらいの根拠があるのかは知らんけど。
本作は、ある意味どんなホラー映画よりも恐ろしいモンスター・スリラー。鑑賞後、自宅のフライパンの事が気になって夜も眠れなくなること請け合いの1作!1人でも多くの人に観てほしい!
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