櫻イミト

傷だらけのアイドルの櫻イミトのレビュー・感想・評価

傷だらけのアイドル(1967年製作の映画)
4.0
監督はフェイクドキュメンタリー作品「ザ・ウォー・ゲーム」で、オスカーのドキュメンタリー賞を受賞した鬼才ピーター・ワトソン。本作もフェイク・ドキュメンタリー形式で、あるアイドルがマーケッターとプロデューサーの手で国家的カリスマとして作り上げられていく様子を描いている。(制作された1967年のイギリスはビートルズとローリング・ストーンズの全盛期)。その大衆操作の手法はそのまま現在の芸能界や広告代理店に当てはまる。ストーリーはにひねりはないが、クライマックスとなる「英国史上最大の愛国イベント」の描き込みが圧倒的に好みだった。
主人公の巨大なモノクロパネルが設置されたステージ。ナチスのような制服の兵隊が警備する中、全国キリスト教団体の代表と女王スカウト隊の行進が始まる。聖火ランナーの点火により燃えあがる十字架。政府代表による「今こそ国家・国教の元に団結しよう!」とのアジテーション演説に、会場は「国家に従おう!」の連呼で一体化する。最高潮の熱気の中、新たな国家の規範として呼び出され、光と共に登壇する主人公スティーブン。ステージ前には看護婦に車いすを押され病人たちが集められる。荘厳な合唱と弦楽器をベースにスティーブンが悲痛な顔で歌い出す「わたしは主の前にひざまづく、われらを守りたまえ、われらを許したまえ・・・」
この模様をフェイクドキュメンタリーの巨匠が見事に演出している。音楽もビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ~」でアレンジを担当したマイク・リアンダーが手掛けていて同時代的。
日本ではソフト化されていないため外国盤DVDを購入し、日本語訳が掲載された当時の「シナリオ」古本と共に鑑賞。
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