櫻イミト

六番目の幸福の櫻イミトのレビュー・感想・評価

六番目の幸福(1958年製作の映画)
3.5
「サウンド・オブ・ミュージック」(1964)に影響を与えたと言われる一本。中国で宣教活動を行い戦時中に大勢の孤児たちを救ったイギリス人女性の実話をベースに映画化。バーグマンのハリウッド復帰3作目。監督は「吸血鬼ボボラカ」(1945)のマーク・ロブソン。題名は中国の諺からで、人の幸福には「長寿、富貴、健康、道徳、天寿」の5つがあり、最後にもう1つ自分だけの幸福を見つけよとの教え。

【あらすじ】
1930年代後半イギリス。宣教師として中国で活動することを夢見るリバプールの家政婦グラディス・エイルワード(イングリッド・バーグマン)。しかし宣教師の資格がなく伝道協会から断られため、資金を貯め自力で中国へ渡ることを決意。シベリア大陸横断鉄道の長い旅を経て中国奥地(山西省)の山村に到着する。村では老いた女性宣教師ロウソンが活動資金のため“6番目の幸福”という名の旅館を立ち上げる最中で、グラディスは助手として働き始める。村の省長(ロバート・ドーナット)に纒足(てんそく)禁令を伝えに訪れた中国軍の混血将校リナン(クルト・ユルゲンス)は、彼女に戦争が迫っていることを伝え帰国を勧めるが。。。

スケールが大きなくエンターテイメント・ヒューマンドラマで、157分の長尺だが楽しめた。バーグマンは当時42歳。理想のためには困難にもへこたれない主人公像が良くはまっていて、イタリアでの試練から得たであろうバーグマンの逞しさと余裕が感じられた。

イギリス本土に再現された中国の山村のセットは大規模かつ緻密で目を見張る。そして中国の描かれ方は、主人公の愛した土地としてかなり良心的なニュアンス。村の省長役のロバート・ドーナットは「チップス先生さようなら」(1939)でアカデミー主演男優賞に輝いた名優。本作でも味わい深い好演を見せているが、撮影中に急逝し遺作となった(享年53歳)。その事実を知ると、最後の登場場面でバーグマンに「もう二度と会うことはないだろうと」と感極まる姿がなおさら胸を打つ。※脚本家、和田夏十(なっと)のペンネームは彼女がドーナットの大ファンだったことから命名。

なお、白人のドーナットが中国人を演じたこと、後半からは中国人役の登場人物たちが英語で話す(字幕省略のため)ことを批判する向きがあるが、個人的には野暮な批判だと思う。

「サウンド・オブ・ミュージック」への影響を指摘されるのは終盤、主人公が孤児100人を連れて山越えの避難をするシーン。同作ではラストの山越えシーンで、“すべての山に登り、流れを渡り、虹を追いかけ、あなたの夢を見つけなさい”と歌われる。これは本作の「六番目の幸福」が示す“自分だけの幸福を見つけなさい”と確かに接続する。

海外では評価の高い映画だが、日本ではあまり知られていない一本。終盤に主人公と孤児たちを爆撃するのが日本軍であることが、一部の愛国者層から敬遠されるのかもしれない。

※本作のモデルとなったグラディス・エイルワードは、バーグマンと本人のルックスがかけ離れている点と、映画用に脚色された中国軍将校とのロマンスに否定的見解を示したとのこと。
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