ら

羊たちの沈黙のらのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
3.7
久々に観返してみた。「地味な映画だった」と記憶していたが全然地味ではなく、スリリングで面白い。ただ、今観ると本格的なサイコ・スリラーというよりはB級然としていて、カルト的な人気を博すのは分かるけれど、アカデミー作品賞を受賞したというのはかなり不思議である。名作なのは確かだけれど。

説明めいたカメラのズームが多用されていたり、僅かな情報から人物像や背景を全て見抜いてしまうレクターのプロファイリングは技術というよりほとんど超能力の域であったり、救急隊員を欺いて脱獄するシーンにさすがにリアリティがなさすぎたり、などなど色々とかなりいかがわしい映画である。フィクションなので割り切って楽しめるけれど、アカデミー作品賞を取ったというのはやっぱり不思議だ。

この映画を大成功足らしめたのは、ジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンスの名演なのだろう。二人の演技の説得力が全てを上塗りしてしまう。アンソニー・ホプキンスの怪演は強烈な印象を残したが、現在の視点から見てより奥深いのはジョディ・フォスター(クラリス)の方である。レクター博士は超越者でしかないが、クラリスは生身の"女性"の立場と不安を引き受ける。まだ甘ちゃんのティーンの頃には考えが及ばなかったけれど、明らかに"女性"の立場についての映画になっている。

男性達からクラリス(女性)へと一方的に向けられる性的で暴力的で蔑んだような視線。軽んじられ標的にされるという意味では、連続殺人の被害者たちと共通している。そんな中、レクター博士がクラリスに向ける視線だけが全く異質なものに感じられるのも恐ろしい。
ら