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瞳をとじてのらのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
3.7
(観てから二週間も経ってしまったけれど)

物語の力(ミステリーとサスペンス)でぐいぐい引っ張っていくような作品であることにまず驚かされる。今のエリセってこんな感じなのか。言葉数(会話劇)が多く、切り返しショットが多用されるなど『ミツバチのささやき』や『エル・スール』とはだいぶタッチが異なるが、上記の二作を「娘の視点から父の不在を感じる」映画であるとすれば、父の捜索から発見へと至る本作の物語には連続性がある。そう考えると、アナ・トレントがアナとして登場する(『ミツバチのささやき』でアナは幽霊を呼ぶために「瞳をとじて」いた)のも本作の物語における必然であるように感じられる。過去と記憶とアイデンティティを巡る物語をより重層的なものにしている。

主人公ミゲルにはビクトル・エリセ自身が重ねられ、監督自身の半生(完成させることのできなかった映画への想いなど)を反映している。『エル・スール』という傑作長編劇映画から約40年(ドキュメンタリー『マルメロの陽光』も含めると約30年)の歳月がそのまま詰まった物語の重みと、今の時代に問いかける「映画についての映画」としての重みにクラクラしてしまった。劇場で観ることができてよかった。
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