イニョン（縁）のおかげで結ばれる出会いもあれば、阻まれる関係もある。そんなものはすべて幻か迷信なのかもしれないが、感覚としては誰の身にも覚えがあり、理解できるものだろう。人生は不思議なめぐり合わせの連続でできている。個人の力を超えて流れる大きな力のようなものに導かれ（たように感じ）ままならない時、人はその状況とどう向き合うべきか。
セリーヌ・ソンは「本作を『大人になるために最善を尽くす３人の物語』と形容」している。その言葉の通り、３人の登場人物は人間らしく揺らぎながら"思慮深い大人"であろうと最善を尽くしていく。
ノラの夫・アーサーについてはそれほど多く語られないが（それゆえに想像の余地も大いにある）、彼の視点は本作をより奥深いものにしている。自分の力ではどうすることもできない、踏み込みようのない強力な物語を前にした時、彼の取る態度は一つの理想的な現実との向き合い方であるように思える。いざ映画のことを思い返すと考えてしまうのはアーサーのことばかり。バーで飲む３人を見て誰かが噂し合う冒頭のシーンがリフレインして胸がいっぱいになる。
