Kuuta

羊たちの沈黙のKuutaのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
4.7
今作以降粗製乱造された「猟奇殺人もの」があまり好きじゃないため、今作もずっと避けてきたがようやく見た。素晴らしかった。

見る見られる関係の逆転。最後の暗視ゴーグルシーンは天才だと思った。サスペンスの基本を丁寧にやっているから、クラシック映画のような美しさすら感じる。

そこに現代的なジェンダーの視点を放り込んでいる。最初のエレベーターのカットからして、ジョディフォスターのか弱くもタフな女性像が見事にハマっている。性の対象として好奇の目に晒される女性が、文字通り脱皮し、一人の人間として成長していく(可愛らしい緑のコートが印象的)。被害者の女性は成長途上のサナギを喉に詰まらせて死んでいる。

一方の犯人も性的なアイデンティティが揺らいでおり…。犯人は母親性を追い求めながら、服を身につける(=脱皮の逆)、クラリスと正反対な存在。
また、女性といっても議員やその娘の描写にはグラデーションを付けている。

上司もレクターも、クラリスの代理父のような存在と言える。こちらの2人も鏡像関係にあり、クラリスは身体的な接触によってそれぞれから承認される。

レクターのキャラの面白さに頼りきらず、クラリスの話に持っていった節度ある構成に好感を持った。寒々しい田舎の映像や、視線の圧力。サイコな雰囲気を薄っぺらいセリフや設定ではなく、ちゃんと映像で語れているのが何よりも素晴らしい。94点。
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