よどるふ

ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版のよどるふのレビュー・感想・評価

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周囲が爆笑しているにも関わらず、身体がピクリともしていない者。号泣しながら映画に感じ入っている者がいる一方で、鼻をほじりながら画面を眺めている者。映画館に訪れる観客が“一様ではない”さまが描かれる。

映画を観るためではなく寝るために映画館に来ているのだと宣言する者や、映画館で事に及んでいる者たち。人生の終わりの瞬間を映画館で迎える者など、とにかく千差万別な観客によって構成された“映画館”という場を描くこの作品の佇まいには、とても健全さを感じた。

“映画”を「特定の場所および特定の時代における娯楽の大きな割合を占めるもの」、「主人公の人生における比重の高いもの」として描く前半から、時代を経て映画がテレビに取って代わられ、主人公が成長する後半にいくに従って、作中の“映画”の気配も後退していく構成。

「ノスタルジーに惑わされるな」という台詞に釘を刺されながらたどり着いたエンディングは、“映画館で目撃した記憶”を振り返る郷愁を誘うものではなく、映画が“編集”というプロセスを経て作成されたものであることを強調するかのような、チャーミングなものだった。

個人史、映画史、映画館史、郷土史のちょうどいい感じのところを駆け抜けていくバランスを保ったストーリーテリングと、ひとつのスクリーンを観ている観客たちがみんな同じ思いを抱いているわけではないという自明の提示。繰り返しになるれど、健全な映画だった。
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